来季のF1、レッドブルは結局引き続きルノーからPUの供給を受けるコトが発表されましたね。ただ面白いのは、そのルノーエンジンにはタグ・ホイヤーのバッジネームが付けられるというコト。
Red Bull to run TAG Heuer-badged Renault engines in 2016
こうした、エンジンの実際の製造元と異なる企業のバッジを付けるというやり方はF1の世界でもそんなに珍しいコトではありませんが、最近だとあんまり無かったような。そのせいか、妙に懐かしい感じもします。
F1エンジンのバッジネームの例を思い浮かべると、最も有名なのはフォードエンジンでしょうか。F1の歴史上、最も成功したと言われるフォードDFVエンジンも、実際に製造したのはイギリスのエンジンビルダーであるコスワース。フォードはコスワースに資金を出し、バッジネームを付ける権利を得ていたワケですね。
1994年にF1エンジンサプライヤーとして復帰したメルセデス・ベンツも、実際にエンジンを製造していたのは、これもイギリスのエンジンビルダーであるイルモア(イルモアを立ち上げたマリオ・イリエンとポール・モーガンは元コスワース)。ちなみにイルモアはその後F1エンジン製造部門を切り離してメルセデスに売却したんですが、最近になって今度はルノーと提携してF1の世界に戻ってきたというのは面白い流れですね。
そしてもうひとつ、有名なバッジネームが1980年代にマクラーレンに搭載されたTAGエンジン。これはTAG(Techniques d’Avant Gardeの略だそうな)という技術系投資会社がマクラーレンと組み、ポルシェに資金を出して製造したエンジン。そう、タグ・ホイヤー(TAG Heuer)のTAGですね。
タグ・ホイヤーは元々は「ホイヤー(Heuer)」という名前の時計メーカーで、1970年代にはホイヤーブランドでフェラーリF1チームのスポンサーをやってたりします。映画『Rush』でもホイヤーのロゴがマシンにありましたね。その後、1985年クォーツショックで経営が傾いたところにTAGグループが資金援助を行うことでグループ傘下に入ることとなり、名前をタグ・ホイヤーに改めた、という流れ。
TAGグループはサウジアラビアの武器商人だったアクラム・オジェが創設したもので、その息子であるマンスール・オジェがF1に入れ込み、1979年からウイリアムズのスポンサーという形でF1に関わってたりします。1983年からはマクラーレンとタッグを組みポルシェにエンジン開発を委託。マクラーレンがホンダエンジンにスイッチしたあとも、マンスール・オジェはマクラーレンの共同オーナーという形でチームに関わり続けています。
タグ・ホイヤーも1985年からTAGグループと共にずっとマクラーレンのスポンサーを続けてました。ただ、タグ・ホイヤーは1999年にLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループに売却されており、TAGグループからは外れているんですね。ブランド名に「TAG」が残っているのは、その名前がすっかり定着してしまっているからとか、そんな理由でしょうか。
で、ついにタグ・ホイヤーはマクラーレンを離れてレッドブルに付くという決断を下すワケですが……TAGグループとタグ・ホイヤーの関係、そしてそのどちらもがF1エンジンのバッジスポンサーになるというのはなかなかややこしい話ではあります。
気になるのは、今回のタグ・ホイヤーの動きをオジェはどこまで関知していたのか、というところ。普通で考えたら、マクラーレンの共同オーナーであるオジェにとっては、「TAG」の名前が付くブランドがレッドブルのバッジスポンサーになるのは面白くないと思うんですよね。
ただ一方で、しばらく前からロン・デニスとマンスール・オジェの不仲説というのも根強く囁かれておりまして。以下は今年6月に出ていた記事。
ある関係者によると、2年前に起きた“個人的な事件”によって両者の関係は悪化しており、ふたりだけで話すのは珍しいことだと言う。いま、マクラーレン内部で何が起きているのだろうか。
マクラーレン・テクノロジー・グループの株式はデニスが25%、オジェが25%、バーレーンの投資会社マムタラカトが50%を保有している。オジェとマムタラカトの関係は深く、彼らの意向は無視できない。デニスは全権を掌握するべく株を買い取って100%オーナーになりたいと考えているが、いまだ資金調達の目処は立っていないという状況だ。
この噂とタグ・ホイヤーの今回の動きを関連づけて考えるべきかどうかは正直微妙なところですが、なんか気になるところではあります。ていうか、オジェって今でもタグ・ホイヤーの株主だったりするのかな?と気になったんですが、それっぽい情報を見つけられませんでした。ご存じの方いらっしゃいましたら、ご教示願いたく。
しかしなんですよ、タグ・ホイヤーって私がF1を見始めた1992年から2003年までF1の公式計時を担当しており、マクラーレンのエースだったアイルトン・セナも着用していたというコトもあって、F1を代表する時計ブランドといえばタグ・ホイヤーというイメージが強いんですよね。当時発売されていたセナモデルのクロノグラフ、めっちゃ欲しかったんですが無論買えるワケもありませんでした。
その後、F1の公式計時を止めてからは、なんか地味な存在になっちゃってた気はします。そういう意味では今回のレッドブルへの鞍替え&バッジスポンサーはF1に於けるブランドのテコ入れという意味合いもあるのかも知れませんが、なかなか思い切ったなぁ、という印象。
でもなぁ、やっぱりタグ・ホイヤーはマクラーレンと共にあるイメージが強すぎてなぁ……慣れるのにしばらく時間が掛かりそうです。