F1の歴史上に於いても前代未聞、まさに異例の状況と言えますね。おのれCOVID-19。いやしかし、中国や日本でこのウイルスが話題になり始めたときには、ここまでの事態に発展するとは思って無かったよ……。
Formula 1, FIA and AGPC announce cancellation of the 2020 Australian Grand Prix | Formula 1®
世界的に感染が広がりつつある状況を受けて、各地でライブイベントやスポーツイベントが開催中止・延期あるいは無観客試合にするといった流れにはなっていましたが、F1は4月開催予定だった中国GPを2月の段階で開催延期とし、3月9日には第2戦バーレーンGPも無観客開催と決めたものの、その他のレースに関しては特になんのアナウンスもなく、開幕戦オーストラリアGPも通常通り開催される予定でした。
が、現地入りした関係者の中でCOVID-19の感染が疑われる症状を示した人がいたようで、検査の結果マクラーレンのスタッフ1人が陽性反応。これが報じられたのが木曜日、翌日からもうフリープラクティスが始まるタイミング。
これを受けてマクラーレンはオーストラリアGPの不参加を表明し、レースそのものの開催を巡っての緊急会合が行われたようです。陽性反応が出たのが1人だけとはいえ、スタッフから感染者が出てしまったというコトはパドック内で感染が広がってしまった可能性も否定はできないハズで、レースそのものの中止はやむを得ないだろう……と思いきや、なかなか「中止決定」のニュースが出てこない。
結局、正式に開催中止のアナウンスが出たのはフリープラクティスが始まるわずか2時間前というドタバタぶりで、すでにアルバートパークに詰めかけていた観客は入場ゲート前で留め置かれ、結局中には入れないまま帰されるという散々な状態になってしまったようです。
Fans banned from attending Australian GP
開催中止はやむを得ない、というのは誰の眼から見ても明らかだったように思うんですが、すぐに中止のアナウンスができなかったのは、結局F1という興業に絡んでいるステークホルダーが多岐にわたり、その調整が容易では無いってコトでしょう。ぶっちゃけて言えば、誰がこの損失を被るのか、って話だとは思うんですが。
ロス・ブラウンもすぐさま決断が下せなかった要因として、関係各所との調整があったことをコメントしてますね。オマケに、F1のボスであるチェイス・ケアリーは問題が発覚した際には、ベトナムからオーストラリアへの移動中でもあったようです。
“[F1 CEO] Chase [Carey] unfortunately was in the air, flying between Vietnam and here. So it was a pretty stressful period. Considering we dealt with everything in 12 hours, for something that important, was good.”
via: How Formula 1 approached the Australian GP cancellation | Formula 1®
まだマクラーレンのスタッフの陽性反応が明らかになる前に行われた木曜日の記者会見で、ハミルトンはそもそもレースが開催されることへの疑問を口にしてましたね。
「僕はこの問題に対しては、自分の意見をはっきり言うべきだと思う。結果がわかるまでに5日ぐらい（つまりレース後まで）かかると聞いた。偶然にしても、ちょっとあり得ないよね。やっばり、お金かなあ。僕にはわからない。とにかく、この週末が感染者が出ることなく終わることを本当に望んでいる」
via: F1オーストラリアGP木曜会見：異様な雰囲気で始まった会見。王者ハミルトン「みんながここにいることに驚き」 | F1 | autosport web - Part 2
一方、チェイス・ケアリーは「そもそも、オーストラリアに来る前に中止の決断は出来なかったのか？」という質問に対して、「もちろん以前から議論はしていた。先週の段階で知りうる状況を勘案して開催を決断した」みたいなコメントしてますね。そもそも、オーストラリア側が開催を強く望んでいたんでしょうね。
"We've been certainly discussing this issue before last week. It's not like it came out of the blue.
"I think we made the decision to come here based on what we knew last week, what the situation was here on the ground, the events they were having, and the degree of the number of infections here.
via: F1 boss Carey defends series' Australian Grand Prix decisions - F1 - Autosport
そうでなくともオーストラリアGPの主催者は赤字続きの状態で、しかもビクトリア州政府が財政支援を行っているとのコトなので、地元自治体としても「カネをドブに捨てている」みたいな批判を浴びたくない、って思いも強いんじゃないかと。
ただ、パドック内から感染者が出たという状況を受けて、オーストラリアGPの中止に留まらず、立て続けに無観客での開催となるハズだった次戦バーレーンと、第3戦ベトナムの開催延期も決定。オーストラリアは土壇場まで中止が決まらなかったのに対してこの2戦の延期が早々に決まったのは、おそらく以前から水面下で開催中止の条件について関係者間で協議していた（ケアリーはオーストラリアに来る前にベトナム寄ってたみたいだし）というのもありそうですし、さっさと決めないとメルボルンに運び込んだ大量の機材をどこへ持っていけば良いのか宙ぶらりんになってしまう、というのもありそう。
Bahrain and Vietnam Grands Prix postponed | Formula 1®
そして、F1の開幕は5月下旬にずれ込みそうだ、という見通しも語られています。ただし、それもヨーロッパでのウイルスの状況次第であり、まだこれは流動的と言えそう。
"As a result, Formula 1 and the FIA expect to begin the Championship in Europe at the end of May but given the sharp increase in COVID-19 cases in Europe in recent days, this will be regularly reviewed."
via: F1 2020 season now expected to start at end of May, say Formula 1 and FIA | Formula 1®
となると、フェルスタッペン人気でカレンダーに加わったオランダGPや、毎度おなじみスペインGPは少なくとも延期もしくは中止が確定的ということ。ただ、モナコも危ないという説も囁かれており、6月のアゼルバイジャンが開幕戦になるのでは、なんて話も……。
発表前から中止の雰囲気ただよったパドック。現状では「オランダ、スペイン、モナコも難しい」との声／2020年F1オーストラリアGP現地情報 | F1 | autosport web
ただ、そのままレースの数を減らしてしまうと、それはそれでテレビ局との契約違反にもなってしまうようで、そうなると夏休みをぶっ潰してでもレースをねじ込んでいくしか無いのかも知れません。ただ、ロジスティクスや現地での受け入れがちゃんと整うのかって問題がありますが。てか、上にリンクした記事で初めて知ったんですが、
さらに北半球が冬季を迎えてもレースを開催可能なバーレーンやオーストラリアは、12月以降に復活させたいところ。ただし11月27～29日のアブダビGPとは最終戦開催の特別契約が結ばれていること、さらに車両規則が大きく変わる2021年に向けた新車開発との兼ね合いもあることから、代替レース開催の調整は決して簡単ではない。
via: 発表前から中止の雰囲気ただよったパドック。現状では「オランダ、スペイン、モナコも難しい」との声／2020年F1オーストラリアGP現地情報 | F1 | autosport web
アブダビって「最終戦開催の特別契約」なんですねえ。へええ。ただそうなると、12月にF1をやるってワケにもいかなくなりますね。かといって、とにかくレースとレースの隙間に新しく追加しろ！だとロジスティクスも、ハチャメチャな連戦を強いられるチームも破綻してしまいそうです。
そもそもがF1史上最大のレース数が予定され、それに伴う過密日程が組み上げられていた年にこんな前代未聞の騒動が起きちゃったんだから、混乱まっしぐらになるのもむべなるかな。人間、欲張りすぎると痛い目を見るという、現代の寓話を見ているような気分にすらなります。
しかしなんだ、この土壇場のタイミングでおあずけをくらうのは辛いね……レッドブル・ホンダがどれだけ速いのか楽しみにしていたのに……。そして、F1感想文がメインの本ブログにとっても「F1が開幕しない」というのは危機的状況であります。どうしてくれよう。
