大須は萌えているか?

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8月15日なので、岡本喜八『日本のいちばん長い日』を観てみた

ホントはプライムビデオ対象にならないかなーと機を窺っていたんですが、せっかくの8月15日なので(?)、岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』をAmazonビデオのレンタルで観てみました。2015年にリメイクされたやつはプライムで観られるんですけどね、そっちじゃないねん。

岡本喜八作品は今まで観たコト無かったんですけど、なんで興味を持ったかといえばそりゃあ庵野秀明っていうか、直接的にはシン・ゴジラなワケでございます。

『シン・ゴジラ』に岡本喜八監督が登場するワケ『日本のいちばん長い日』(1967年)【名画プレイバック】 - シネマトゥデイ

映画の内容は↑のリンク先記事にガッツリ書かれているので端折りますが、観てみると「ああ、こりゃ確かに庵野秀明ガッツリ影響受けてるわ」という感じでした。所々に挿入されるテロップだとか、細かいカット割りだとか。この『日本のいちばん長い日』、2時間半という長さにも関わらず、映像のテンポと緊張感ある場面の連続のために体感的にはあっという間。

てか、映画のタイトルが表示されるまでに20分くらい掛かるっていう(その20分の間に、ポツダム宣言の発表から8月14日までの流れをざざっと描く)。この作品のタイトルが指す「長い日」というのは8月14日正午から玉音放送が流れる8月15日正午までの24時間を指しているのですが、よくもまあこの24時間という間にこれだけのコトが起きたなと。

この作品で一番印象的だったのは、映画が始まってからだいたい1時間半くらい経ったタイミング(短めの映画ならもう終わる時間だ)で、ポツダム宣言の受諾を決定し、玉音放送で読み上げる詔書の内容を閣僚達が喧々諤々の議論の末に決定したあと(劇中では8月14日から15日に日付が変わる頃合い)に流れるナレーション。ちょっと長いんですが、文字起こししてみます。

9日以来、議論に議論を重ねてきた閣僚たちは、疲労と心労が一時に吹き出し、もうほとんど虚脱状態に近かった。 その頭の中で、鈍い色々の想いが去来して交錯する。

ある者は歴史上初めて経験する敗北の意味をなんとか噛みしめようとし、ある者は終戦に持ち込めなかった日本をぼんやり想像した。原爆が次々と各都市を破壊してゆく。九州の薩摩半島と、関東地方の九十九里浜に殺到してくる百万の連合軍。北海道にはソ連、いやソ連朝鮮半島を一気に南下し、北九州や中国地方へ。

日本は各所で分断され、男も女も、子供も老人も、その砲火と硝煙の中で倒れてゆき、日本列島は八千万の累々たる死骸の死の島に。

だが、これらの曖昧模糊とした想いも肉体的な疲労感には勝てず、ともすれば薄らぎ、そして最後に残る感慨は誰しも皆一様に同じだった。

『疲れた……。』

長い日だった。本当に長い一日だった。だがその長い日も今やっと終わった。

その時の閣僚達の心境が透けて見えるような、大勢の兵士と国民を殺してきた戦争を終わらせるというコトがどれだけのエネルギーを要するものなのか、そういうものが伝わってくる良いナレーションだな、と。

……が、この直後に『しかしその一同の考えは間違っていた。長い日は終わるどころではない、まだやっと、その半分しか過ぎていなかった。』という追加のナレーションが加わるコトにより、観ているこっちまで「うえええ」っていう気分になるっていう。

そして宮城事件の実行者達が決起するワケですが、そんな中で終戦に向けて段取りを付けていく人達と、最後まで徹底抗戦を訴えて戦争を継続しようとする陸軍の一部勢力を交互にカットを切り替えながら映し出していくシーンも印象的、というかある種狂気めいたものすら感じてしまいました。

昭和天皇が静かな部屋で玉音放送を録音しているシーンと、敵機動部隊の迎撃に向かう陸軍飛行隊を、町民が日の丸の端を振ったり軍歌を歌って送り出すシーンの対比。あるいは、鈴木貫太郎内閣総辞職を決意して晴れやかな顔をしているシーンと、クーデターに失敗した椎崎二郎と畑中健二が、諦めきれずに大声を上げながら檄文をばらまきながら走り回るシーンの対比。これらが実際にほぼ同時刻に起きていたコトだと考えると、目眩がしてきます。

正直この映画を観ていると、陸軍さえもっと聞き分け良ければもっとすんなり行ったんじゃ……という気がしないでもないですが。一方で、鈴木貫太郎笠智衆)や東郷茂徳宮口精二)がかなり本人に似せたキャスティングであるのに対し、陸軍大臣阿南惟幾役には三船敏郎を起用してやたらダンディになっているのは、旧陸軍関係者に対するエクスキューズなんでしょうか。

陸軍は陸軍で、思うところはあったんでしょうけども。陸軍については、以前読んだ『昭和陸軍全史』など中々興味深かったです。

昭和陸軍全史 3 太平洋戦争 (講談社現代新書)
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