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「捜査関係事項照会書」を巡る温度差

ネットの世界では嫌われ者のTポイントカードを発行しているCCCが、捜査令状無しでも警察に対して会員情報を提供していた、てなニュースが話題になったりしてますね。

その個人情報の取り扱いに関し弊社は、捜査令状があった場合にのみ、必要最小限の個人情報を提供するという協力姿勢をとってまいりました。

一方、弊社の保有する個人情報は年々拡大し、社会的情報インフラとしての価値も高まってきたことから、捜査機関からの要請に基づき、2012年から、「捜査関係事項照会書」があった場合にも、個人情報保護法を順守したうえで、一層の社会への貢献を目指し捜査機関に協力してまいりました。

via: お知らせ|CCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社

捜査令状無しでも情報提供を行っているのは、捜査機関が「捜査関係事項照会書」による情報提供を要請してきたときなんだそうですが、こういう話に疎いもんでそもそも「捜査関係事項照会書」というのが何なのか知りませんでした。なのでググってみると、なぜか愛媛県警のページがトップヒットしたりして。これによると、この書類は警察が内部あるいは外部組織に対して任意の情報提供を要請するときに作成されるものであり、捜査対象となる事件の主幹課の警部以上の役職にある人が決済するとあります。

捜査関係事項照会は、捜査主任官が個々の照会ごとに照会の必要性、照会内容等を十分検討し、事件主管課(署の課を含む。以下同じ。)の警部以上の階級にある者が、責任を持って発出の是非を判断した上で所属長の決裁を受けること。

via: 捜査関係事項照会書の取扱いについて

あくまでこれは任意の要請であり、この要請を受けた側はこれに応じる義務は無いんですね。じゃあ実際にこの要請を受けたところは、どれくらいその要請に応じてるものなの?というのが気になってくるところですが、以下の日本図書館協会のサイトには捜査関係事項照会書に基づく情報提供依頼があった場合のガイドラインがまとめられてますね。

『同上書』「法令との関係」(39頁)にあるように、”刑事訴訟法第197条第2項は「捜査に関し公務所への照会」ができることを規定している”が、”照会に応じなかった場合の罰則規定はない”ことがわかります。合理的な理由(正当な理由)がないときは照会に応じる義務があると解されていますが、公務員の守秘義務は正当な理由となります。

(中略)

単純に言えば、「警察からの照会に緊急性が認められるか否か図書館で判断する。緊急性がなければ、照会状による提供は断る。警察はそれでも情報がほしければ、捜索差押令状を裁判所に請求して出してくる(任意捜査から強制捜査に)。」ということになります。
捜査機関は1~2日で裁判所から捜索差押許可状を得ることができます。照会に応じるのは、

  • その余裕がなく、
  • 他に代替方法がなく、
  • 人の生命、財産等の危険が明白に認められる場合、

に限定されるべきです。

via: 捜査機関から「照会」があったとき

捜査関係事項照会書は法律(刑事訴訟法)に基づくものであり、拒否する合理的な理由が無い限りは応じる義務があると解釈されている、と。ただ、情報提供を求められた側が公務員である場合は、公務員に課せられた守秘義務がその理由たり得るという話。

あと、これもググってヒットした「北海道医報」のPDFなんですが、この照会は法律に基づくものなので、回答をしたとしても個人情報保護法に引っかかるものではないよ、という話。

「捜査関係事項照会書」は、刑事訴訟法197条2項に基づく照会ですが、任意捜査ですか ら、病院には照会に応ずる法的義務まではありません。しかし、患者の病名や通院期間のよう に、カルテを見れば容易に回答できる事実の照会には、回答するのが一般的です。なお、この 照会に対する回答は、個人情報保護法の「法令に基づく場合」に該当するので、患者の同意 がなくても、同法違反にはなりません。

via: ijiqanda45.pdf

一方で、このPDFの「質疑応答」の部分にある弁護士のコメントにこんなのも。

任意捜査ですから、拒絶してもお咎めはありません。逆に、患者情報を安易に外部に出すと、患者から恨まれることもありますので、照会事項を慎重に検討する必要があります。

(中略)

捜査関係事項照会は、原則として、病院がカルテを見ればすぐ回答できるような明白な事実に関する照会に限定すべきものです。しかし、警察はこれを拡大解釈し「交通事故と被害者の症 状との因果関係」とか「加害者の責任能力」など、本来、鑑定人に依頼すべき事項についてまで、病院に意見を求める傾向があるので、用心して対処すべきです。

via: ijiqanda45.pdf

容易に回答が可能な内容であれば回答するのが一般的だが、情報を警察に出された患者にしてみれば面白く無いハズなので、慎重になるべきだよねと。あと、警察は調子こいてこっちに聴くべきコトでない部分まで意見を求めてくるコトがあるので注意な、という話。

なんにせよ、警察の要請だから、と安易に回答するべきでは無く、内容を吟味して必要かつ最小限の範囲で回答すべし、という点では一致している感じですね。先に引用した日本図書館協会のページによれば、

2011年に実施した「図書館の自由に関する全国公立図書館調査」で、捜査機関からの貸出記録等の照会を受けたことのある館は192館(945館のうち20.3%)でした。うち提供した館が113館(58.9%)となっています。

via: 捜査機関から「照会」があったとき

とコトなので、照会依頼を受けたコトのある図書館のうち、4割以上は提供を拒否しているっていう。わりと断っているんですねえ。まあ公的な施設である図書館と違って、民間の営利企業はお上の依頼を突っぱねにくい感じはしてしまいますが、それにしてもCCCの「社会貢献のためにもお上に協力するよ!」というコメントとは随分な温度差を感じます。

CCCのコメントの何が問題かって、個人情報の外部提供に対する慎重さが全然感じられないところと、どのような照会に対してどれくらいの情報を提供しているのかがまったく分からないところかなと。そうでなくともCCC(Tポイントカード)は個人情報の扱いがぞんざいであるというのがWEB上の定説になってしまっているのに、さらにこんなコメントを見てしまうと警察に言われたらレンタルビデオの貸し出し履歴や店舗の防犯カメラ映像まで、なんでもかんでも提供してるんちゃうか、と思わせてしまうところではないかと。

もちろん、他の企業に対しても捜査関係事項照会書に基づく依頼は行われているワケでしょうし、CCCだけの問題では無いワケですが。

「Tカード情報、令状なく提供」報道が波紋 「Ponta」「dポイント」の対応状況は? - ITmedia NEWS

ただ、各社がどういうポリシーで情報を提供しているのか、というのは興味ありますねえ。あと警察が照会を行うときのポリシーもね。個人のあらゆる行動が記録されてしまう時代、EUGDPRのような取り組みが他地域にも波及していきそうな時代なだけに、ユーザーに対してわかりやすく丁寧に情報提供のポリシーを掲げるコトは、企業の信用にも繋がる話だと思うんですが。

個人的にはTポイント全然使って無いから良いんだけどさ、DMMの履歴とか掘り出されるとさ、「あ、こいつ何月何日の何時頃にストリーミングでVRのAV観てやがる」みたいなのが分かっちゃいそうだからさ、そういうデータをお上に提出されたりするとさすがに気分悪いですよ?