大須は萌えているか?

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映画『フォードvsフェラーリ』を観てきた話

先週末封切りになった映画、『フォードvsフェラーリ』を見てきました。

長い歴史を誇るル・マン24時間レースの中にあっても、5本の指に入るくらい有名な1966年のレースを中心としたストーリーになってます。なんで1966年のル・マンが有名なのかと言えば、アメリカ車が初めて優勝したレースだったからであり、1960年から6年連続で優勝を果たし「絶対王者」として君臨していたフェラーリを打ち破っての優勝だったからでもあり、それもフォードGTがトップ3を独占した形での勝利だったからでもあり、さらにその優勝者が意外な展開で決定してしまったからでもあります。

当時ル・マン絶対王者だったフェラーリを打ち破った物語、っていうとなんかカッコ良い感じもしますが、しかしながら当時のフォードは金にモノを言わせた大物量作戦を展開しており、挙げ句1966年のレースってフェラーリが次々にマシントラブルで自滅するという展開で姿を消し、結果としてフォードの1-2-3が実現したという流れだったため、これそのまま映画にしても盛り上がりに欠けるのでは……という気もしたりして(もちろん、フォードGT自体の速さはホンモノだったし、トップ3を堅持してフィニッシュした信頼性の高さもあったワケで、フォードの優勝そのものが「棚ぼた」だったというコトではありません)。

そこでこの映画の採ったアプローチは、フェラーリとの対決は添え物程度の扱いとし、フォードGTの開発を請け負ったキャロル・シェルビーと、そのテストドライバーを務め1966年のル・マンにも出場したケン・マイルズの2人の関係を物語の主軸とし、その2人がフォード社内の「企業の論理」と戦うというのがストーリーの中心となっています。タイトルの『フォードvsフェラーリ』ってわりとウソ。

逆に言うと、それ以外の要素はかなりざっくりカットしています。マイルズ以外のレーシングドライバーはちょっと顔見せる程度の出番しかないし(マイルズ以外のドライバーで一番出番が多いのは当時フェラーリのエースだったロレンツォ・バンディーニだけどセリフらしいセリフは無し、フォード陣営のデニス・ハルムブルース・マクラーレンはほぼ出番自体ほとんど無し)、フォードGTの開発における技術的な側面も描かれてません。この手の映画に技術的なウンチクを期待して観にいく人はほぼ居ないとは思いますが、その辺はかなり割り切っています。

それだけ割り切った内容にも関わらず(?)上映時間は2時間20分とそこそこ長め。ただ、長さはあまり感じさせず、映像のテンポが良く、レースシーンでは非常に迫力のある映像が楽しめましたね。当時のサーキットの様子もかなりこだわって再現されている感じしますし、フォードGTやフェラーリ330P3も素人目にはホンモノと区別が付かない。ていうか330Pカッコ良い。

組織の外側に居るはみ出し者の2人が大企業の論理と戦うっていうのは非常にベタなストーリーではありますが、それ故の普遍的な面白さがあるのは確か(個人的にそういうお話は好物)。それに加えて、1966年のデイトナル・マンが現代の映像技術で緻密に再現されている、というのがこの映画の見所でしょうか。私自身、ケン・マイルズというドライバーのコトは全然知らなかったので、フォードGTがル・マンを制覇した裏にこんなレーシングドライバーが居た、というコトが分かっただけでも劇場に足を運んだ価値はありましたね。あ、あとウィロースプリングスでのレースも登場して、「これグランツーリスモで良く走っているところや……!」ってなりました。

ただ、こういうストーリーにするのであれば、シェルビーとマイルズがなぜここまで強固な絆で結ばれるようになったのか、っていう部分をもうちょっと掘り下げて描いてくれると良かったかなーとは思います。たぶん尺が圧倒的に足りなかったんでしょうけども。

ちなみに、この映画の中ではいわゆる「ル・マン式スタート」(スタートと同時にドライバーがマシンに駆け寄り乗り込んでスタートする方式)が見られますが、この方式は1969年を最後に廃止されているため、今となっては見るコトのできないシーンとなっています。まあ、この方式だと乗り込んだドライバーが我先にとマシンを発進させるため、シートベルトも締めずに走り出すドライバーが多かったみたいで、安全性にも大きな問題があるのは一目瞭然ですしね。ある意味、当時のレースにおける「命の軽さ」が現れているシーンとも言えるかもしれません。

さらに付け加えておくと、1969年にかのジャッキー・イクスが一人だけスタート時にゆっくりとマシンに乗り込み、このスタート方式に暗黙の抗議を行ったのは有名な話ですね。さらに、イクスは結果的にこのレースで優勝している(マシンはフォードGT40)んだから超カッコ良い。この時最後まで優勝を争ったのはポルシェだったんですが、後に耐久の雄と呼ばれるポルシェもまだ未勝利だった時代。そしてこの翌年、1970年にようやくポルシェは念願の初優勝を果たします。

今でこそ洗練されたイメージもあるル・マンですが、そうした1960年代の空気を感じながらこの映画を観ると、より面白いですね。