年に一回くらいは「こんなん予想できるかァー!」っていうレースがあったりしますが、今回まさにそれでしたね。F1イタリアGP決勝。
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マグヌッセンのリタイヤで大ラッキーだった人たち
正直なところ、スタート後にボタスがあれよあれよと順位を落とし、ハミルトンが楽々逃げ切り体制に入ったところで今回のレースは終わったと感じておりました。せいぜい、マクラーレンの2台が表彰台に上るとなるとそれはそれで面白いなあと思った程度で。今回はレッドブルに競争力が無く、地元フェラーリは目も当てられない惨状でしたしね。
ところが、18周目にハースのマグヌッセンが「なんか壊れた」とか言ってパラボリカの出口、ピットエントリーのすぐそばにマシンを止めたコトで事態は思わぬ方向に転がるコトに。その時点でイエローフラッグが出ましたが、セーフティカーは出ておらず、もちろんピットも開放されたまま。そのタイミングでガスリーはピットに入り、ソフトタイヤからハードに交換。もしチームがセーフティカー出動の可能性を考えていたならばこの時点でピットに呼び戻すのは自殺行為なワケで(大幅にタイムを失う危険性があるので)、てことはチームとしてはセーフティカー出動の可能性は考えていなかったワケです。
ところが、ガスリーがピットアウトした直後にセーフティカーが出動。ガスリーが思わず「マジで!?冗談だろ!」と言っちゃうようなタイミング。しかし、セーフティカー出動後11秒経ったタイミングで、マシン撤去のためにピットエントリーが閉鎖され、ガスリーにもそのことが伝えられます。もちろん、チームがこのピットエントリー閉鎖まで見越してガスリーをピットに呼んだワケではなく、ただの偶然であったコトはフランツ・トストも認めているようで。
Had the team chosen to pit Gasly at this point because they expected the Safety Car would come out but the pit lane would remain closed, it would have been an incredibly astute tactical ploy. But team principal Franz Tost admitted after the race this wasn’t the case. “The team did a fantastic job in deciding to bring him in one lap before the Safety Car was deployed,” he said. “Of course, we didn’t know this at that time, but at the end this was exactly the right call.”
via: “Tell me it’s a joke”: Why Gasly thought race-winning pit stop had ruined his Italian GP · RaceFans
ピットエントリー閉鎖のシグナルを見落としていたハミルトンとジョビナッツィはピットインしてタイヤ交換をしてしまい、審議の結果10秒のストップ&ゴーというわりと重いペナルティを喰らう羽目に。これでぶっちぎりの勝利が見えていたハミルトンは優勝戦線から離脱。そしてピットエントリーが再度オープンする頃にはガスリーも隊列に追い付いており、前の車列が一斉にタイヤ交換のためピットインしたコトで、一気に3番手までポジションを上げるというミラクル。
セーフティカー直前でタイヤ交換という大損をしてしまったハズが、マグヌッセンが止まった場所がたまたまパラボリカの出口であったコトからピットエントリー閉鎖というオマケがつき、この合わせ技により大ピンチが逆に大チャンスに変わってしまったのでした。結果オーライにも程がありますが、しかしまさにこれは「運も実力のうち」というヤツです。ええ。また、ガスリーより前にライコネン、ルクレール、ラティフィらもピットを済ませており、彼らも大幅にポジションを上げる格好になりました。
赤旗で大ラッキーだったストロール
この時点でガスリーの前にいるのはハミルトンとストロール、しかしハミルトンはペナルティを受けなければいけない立場で、そしてストロールはペレスとの同時ピットインを避けた結果タイヤ交換が出来ておらず、実質的なトップはガスリーに。え、どうなるんだコレ……と思いつつセーフティカーがコースからどいた直後、今度はパラボリカでルクレールが大クラッシュ。これにより再びセーフティカーからの赤旗中断という流れになり、結果的にストロールはタイムロスなしでタイヤ交換が出来てしまうという、ある意味ガスリー以上の大ラッキー状態に。
ルクレールのクラッシュはパラボリカでリヤが滑ったのを立て直そうとしてカウンターを当てた結果、お釣りを貰ってアウトにすっ飛んでいってしまったというドライバーのミスだったようで。ルクレールって、ピットエントリー閉鎖による大ラッキーも手伝ってリスタート後は4番手までポジションを上げていたんですよね。ルクレールにしてみたら、ここまで来たなら上位フィニッシュしたいという欲が出たと思うんですよ。もちろん、後ろからマクラーレンが追撃してくればひとたまりも無いでしょうけど、間にアルファロメオが挟まっている状態でもありましたし、その隙に少しでもギャップを稼ぎたいという思いもあったでしょう。そうしてプッシュしすぎた結果のクラッシュだったのかなと。
ルクレール曰く、マシンバランスは良く無かったみたいですし、ハードタイヤに履き替えたら余計ヒドくなったみたいなので、最初からルクレールの思いに応えられるようなマシンでは無かったんですよね、残念ながら。
“I just lost the car, it’s my fault. It was a very difficult race to be honest, I struggled throughout on the first set [of soft tyres]. Then I thought we were unlucky with the safety car but with pit lane closed we were actually pretty lucky, then with the hard tyres I struggled massively.”
via: Charles Leclerc admits spectacular Monza crash was ‘my mistake’ | Formula 1®
しかしまあ、思わぬポジションアップが無ければルクレールもここまでリスキーなプッシュはしなかったんじゃないかと思うと、このクラッシュもマグヌッセンのストップから始まった流れに遠因があるよーな気がするんですよね。そしてこのクラッシュが赤旗を招き、結果としてストロールに思わぬ幸運をもたらすっていう、風が吹いたら桶屋が儲かる的な現象がモンツァで発生していたように思われます。
アルファロメオが後ろに居てラッキーだったガスリー
これにより、ストロールは実質的なトップの座を手に入れるコトになったワケですが、リスタート時にタイヤにうまく熱を入れられてなかったのか、あっという間にポジションを6番手まで下げていってしまったのがなんだかなあ、という感じではありました。
逆に言うとこれはガスリーにとってはラッキーで、労せずしてトップの座を手に入れ、かつ後ろにいたアルファロメオの2台はギャンブル狙いだったのかソフトタイヤを履いていたもんだから、しばしの間サインツとの防波堤の役割を果たしてくれたのも幸いでした。特にライコネンがあそこに居なかったら、おそらくガスリーは最後の最後にサインツに捉えられていたんじゃないでしょうか。
サインツはライコネンの攻略に少々時間が掛かっており、ライコネンをオーバーテイクできたのは34周目。サインツは最終的にガスリーを捉えられなかった一因として、マクラーレンのマシンが前走車に接近したときに挙動が安定しなかったコトを挙げており、ライコネンの攻略に少々手こずったのもそこに原因がありそう。
"Then once I got to 1.5s [behind Gasly] I got stuck. The tow, we see it now with these cars and the dirty air just starts affecting you a lot in traction, in braking, mini locks, oversteers.
それでも、ライコネンをかわしたサインツは勝利の可能性を感じており、レースが残り19周あったコトを考えればそれは決して間違いではなかったハズなんですよね。しかし、ここからのガスリーの粘りが素晴らしかった。マクラーレンのペースを考えれば、もっとあっさりガスリーに追い付くかと思ったんですが、34周目に約4秒だった差がなかなか縮まらない。47周目にようやく1.5秒くらいまで追い詰めますが、ここからダーティエアによる挙動変化に悩まされ、DRS圏内まで詰め切れない。
ファイナルラップ直前に1秒以内まで詰め寄ったものの、チェッカーまでに追い付くだけの距離が残されていませんでした。「もう1周あれば」とサインツがコメントしてますが、確かに次の周がファイナルラップだったならば、サインツは1コーナーのシケインでガスリーと勝負できていたでしょうね。
Then suddenly in the last lap and a half I saw him start doing the small mistakes that allowed me to get into the DRS and then I crossed the start finish four-tenths, which would have given me a good run into Turn One if it was one lap more. But, unfortunately it wasn’t one lap more and it is what it is.
ガスリーにしてみたら周囲のあらゆる状況を味方につけての勝利というワケですが、しかしもちろんすべてが偶然ではないでしょう。特にレース後半のサインツとのガチンコ勝負は、ドライバーの精神力の勝負みたいなところありましたしね。最後にガスリーが少しミスをしたコトでサインツはDRS圏内に入れたとコメントしていますが、それでも決定的な破綻を来すコトなくチェッカーまで持っていたガスリーはお見事でした。
フランツ・トストは、ガスリーのマシンがコーナリング重視でセクター2の速さに強みがあり、それによってパラボリカで相手を近寄せるコトなく、その後のストレートでスリップストリームに入られるコトを防ぐコトができたと指摘してますね。要は、アルファタウリのマシンは攻めるよりも防御に向いたマシンだったと。ガスリーの走りは、そのマシンの強みもきっちり活かしたものだった、ってコトでしょうね。
“Carlos was a little bit faster in Sector 1 because he had less wing, but in Sector 2 we were better,” said Tost. “And if in Sector 2 you cannot come close enough, then you also can’t [attack into] the Parabolica, and after the Parabolica, in the slipstream, [you can’t] do the overtake, and this was our advantage.
表彰式のあと、表彰台の頂点に座り込んで様々な思いを噛みしめるようにしていたガスリーは非常に印象的でした。期待のホープとしてレッドブルに抜擢されたまでは良かったものの、その後思うように結果が出せず、トロロッソに「出戻り」になるという挫折を味わってからの優勝、しかもその自分の受け皿になって支えてくれたチームの地元レースの優勝だけに、特別な思いがあったでしょうね。
IN PICTURES: The best shots of Pierre Gasly’s historic maiden victory in Monza | Formula 1®
モンツァは2008年にベッテルがトロロッソと共に初勝利を挙げた地でもありますが、そのベッテルはフェラーリで失意のリタイヤを喫し、意気消沈してしまっているのを見るとちょっと皮肉な感じもありますね。「スタンドに誰も居ないのは有難いことなんだろうね」って、ちょっと切なすぎるコメント。
“Tough times are part of life and part of sports but at the moment I think it’s not fair to all the guys that put so much effort in, that we are that bad,” he said. “But on the other hand it’s a testimony of where we stand and it’s poor obviously where we are, especially here for our home race – I think it’s probably a blessing that there’s nobody in the stands.”
12年前のベッテルは輝きに満ちていたんだけど……。
2008 vs 2020: Comparing Vettel and Gasly’s emotional first F1 wins at Monza | Formula 1®(動画)
新しいヒーローが生まれる一方、かつてのヒーローは輝きを失い……これも歴史なんだなあ……っていや、ベッテルの再起も期待しておりますよ?アストンマーチンとの契約発表はまだかね?
蛇足
レーシングポイントのブレーキダクト問題、結局レーシングポイントもフェラーリも相次いで上訴を取り下げたとのコトで、これで事態は一応の決着ですね。
- レーシング・ポイントが裁定を不服とする控訴を取り下げ | Force India | F1ニュース | ESPN F1
- フェラーリも控訴取り下げ、騒動に終止符 | Ferrari | F1ニュース | ESPN F1
レギュレーションにてあやふやだった部分が明確化されたので取り下げる、というコトですが、まあまた言葉の隙間を縫ってあらたな抜け穴を見つける人が現れ、新たな騒動が勃発していくのでしょう。F1はそのサイクルをずっと繰り返しているのだから……。
あと、ルノーが2021年からチーム名をアルピーヌに変更するって発表もありましたけど、いきなりどうしたんですかねコレ。
Renault to rebrand as Alpine F1 Team in 2021 | Formula 1®
パワーユニットはルノーブランドのままみたいですね。これは今後アルピーヌブランドをさらに発展させていくという宣言なのか、あるいはルノーF1がマンネリ化してきちゃったから新規一点、くらいのノリなのかがようわかりませんが。