大須は萌えているか?

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F1[21] アブダビGP 決勝

このとんでもないシーズンの締めくくりに、さらにとんでもない結末が待っているなんて夢にも思わなかったよ……。色んな意味で歴史に残ることは間違いのないレースになりましたね。2021年のF1最終戦アブダビGP決勝。

大きな疑問符の残る結末

レースを支配していたのはハミルトンでした。スタートを完璧なタイミングで決めてフェルスタッペンを出し抜き、その後は他を寄せ付けないレースペースで流れをコントロール。ソフトタイヤでスタートしたため少なくとも序盤はペースが良いと思われたフェルスタッペンでしたが、ハミルトンに先行されたこともあってかペースが上げられず、ジリジリと離されていく苦しい展開。

流れが少し変わりかけたのは20周目あたり。タイヤ交換を引っ張って暫定的なラップリーダーだったペレスが、タイヤ交換を済ませて後ろに迫ってきたハミルトンを執念のブロックでしばらくの間封じ込め、これによりハミルトンがタイムロスしているすきにフェルスタッペンが追い上げ、ハミルトンに対して2秒以下というところまで急接近。ただ、お互いがハードタイヤに履き替えて条件がほぼイーブンになってもレースペースはハミルトンが優勢。これにより、再度2台の間隔が開いていく展開に。

レッドブルが次の手を打ったのは37周目、ジョビナッツィが止まったコトによりVSCが出動したタイミングでフェルスタッペンをピットに呼び込み、新品のハードタイヤを履かせたワケですね。このまま走り続けてもジリ貧なんだから、少しでも状況を動かそうと新品タイヤのパフォーマンスに賭けた格好でしたが、17秒程度まで開いたハミルトンとの差を埋めるには至らず。58周レースの53周目になってもその差は12秒弱あり、フェルスタッペンの逆転はもうほぼありえない、という状況に。これでメルセデスのダブルタイトル確定だな……と思っていたところ、なんとターン14でラティフィがクラッシュ。コース上にマシンが止まってしまった上にデブリが撒き散らされてしまったので、セーフティカーが入る形に。

コレを見たレッドブル陣営はすかさず動き、フェルスタッペンとペレスのタイヤをソフトに交換。正直、ラスト5周チョイというタイミングでセーフティカーが入るという展開にも開いた口が塞がらない感じだったんですが、まああの事故でセーフティカー入るのは仕方ないし、トップのハミルトンが動けない一方でフリーストップが可能だったレッドブルがタイヤ交換に動くのも当然のセオリー。この流れには異論は無いんですが、問題はその後のレースコントロールの判断でした。

本来であれば隊列に周回遅れが混じっている状態でセーフティカーランになっている場合、周回遅れのクルマを先行させて隊列の後ろに回し、もう1周走って隊列が整った状態でセーフティカーラン解除、となるワケですが、56周目の段階で「周回遅れのクルマはオーバーテイク禁止」というアナウンスがレースコントロールから出るという異例の状況に。このとき、ハミルトンとフェルスタッペンの間には5台の周回遅れが挟まっており、もしこのままレース再開となった場合フェルスタッペンはこの5台を抜き去ってからハミルトンに挑む必要があります。もちろん周回遅れなのですぐにブルーフラッグが出るでしょうが、残りわずかなタイミングで5台の周回遅れをさばくのはかなりキツイ。

ところがファイナルラップ目前の57周目の途中になって、ハミルトンとフェルスタッペンの間に挟まっていたノリス以下5台にのみ「セーフティカーをオーバーテイクして良い」との指示が。このとき、フェルスタッペンと3番手サインツの間にも3台の周回遅れがいたワケですが、こちらは追い抜き不可のままです。なんだそれ。そしてその直後、「SAFETY CAR IN THIS LAP」のアナウンス。かくして58周目のファイナルラップ1周だけのスプリントレースとなったワケですが、トップがファイナルラップに突入した時点でセーフティカーを追い抜いていった5台はややバラけた状態のままターン5を回ったところでした。

ラティフィのクラッシュでセーフティカーが入った。それを受けてレッドブルはソフトに履き替えた。そこまでは良いワケです。しかし、その後のレースコントロールの異例すぎる指示は一体どういうこと??となるのは当然の話。通常であれば、「周回遅れは前に出るな」なんて指示はありえないし、その後一転して「ハミルトンとフェルスタッペンの間に挟まっている5台だけ行ってヨシ」となるのもありえないし、その周回遅れが前に行ったあと1周を待たずにレース再開するのもありえない話です。

メルセデスはレース後すぐさまこの件(と、セーフティカーラン中のフェルスタッペン追い越し疑惑)について抗議をしていますが、却下されていますね。

タイトル争いを分けたアブダビGP終盤のレースディレクション。メルセデスの抗議退けたFIAの評決全文

平たく言えば、

  • レースディレクターはセーフティカーの出動・退出について優先的な権限を持っている
  • 「SAFETY CAR IN THIS LAP」のメッセージは周回遅れの都合よりも優先される

という判断が下ったってコトですね。さらにレースディレクター(マイケル・マシ)のコメントとして、

また、「以前から、“グリーンコンディション”(セーフティカー先導ではない状態)でレースを終えることが非常に望ましいという点で、全チームが合意していた」とも述べている。

via: 物議醸すセーフティカーの手順。メルセデスF1、王座の行方を決定づけたFIAの違反に抗議も認められず。上訴の意思を提出 | F1 | autosport web

とも報じられてますね。つまりは、ファイナルラップをグリーンフラッグの状態で迎えさせるコトを最優先して、レースディレクターの権限を持って通常のフローからは外れたセーフティカー運用を行った、というコトです。

確かにセーフティカーのままチェッカーという光景はファンとしても望ましい光景とは言えず、アンチクライマックスと言わざるを得ない展開ではありますが、しかしこれだけだと最初は「周回遅れは前に行くな」と言い、すぐあとになて「5台だけ行ってヨシ」になった理由が説明できているとは思えません。判断基準があやふやと批判されるマイケル・マシのダメなところが噴出したかのようなシーンでしたし、なによりこうした露骨なレースコントロールの介入が最後の最後に行われたコトで、かなり白けてしまったことは否めません。ドキュメンタリー番組を観ていたら、ラスト手前で急にディレクターがカメラの前にしゃしゃり出てきて演技指導を始めてしまった、みたいな気分です。

筋を曲げてでもラスト1周はセーフティカー抜きでの勝負をさせたい、ただ周回遅れが挟まっていては危険だ、と言うのなら、いっそAUTOSPORTの記事の主張にあるように、ファイナルラップの数周手前で赤旗を出してしまえば良かったのでは、とも思います。それならハミルトンとフェルスタッペンは最後1周をイコールコンディションでの真っ向勝負となり、後腐れのないレースになったのではって思っちゃうんですけど。

While finishing the race under the safety car would likely have triggered criticisms from the Red Bull camp, what makes little sense is why Masi painted himself into a corner over having to make a call on such a safety car restart in the first place.

If the desire to get the race finished under green was so important, then it could have been done in a much fairer and more transparent way with a red flag and then a complete fresh restart.

via: Why Masi’s latest marginal call has left F1 with a sour taste

とはいえ

正直なところファイナルラップはかなり白けた気分で眺めていたんですが、レース後しばし言葉も無かったハミルトンが、最後はフェルスタッペンを称えて見せていたのはなんだか救われましたね。どちらかと言えば、メルセデスファンよりレッドブルファンのほうが救われたのかもしれない。とはいえハミルトン、ファイナルラップでフェルスタッペンにオーバーテイクされたあとチェッカー目前で「これは操作されたものだ」って無線で言ってたみたいですけども。

Verstappen duly passed Hamilton, who four corners from the chequered flag shouted: “This has been manipulated, man.” The comment was not broadcast on the world feed, but was heard on Hamilton’s onboard channel on F1 TV.

via: Hamilton felt Abu Dhabi GP was “manipulated” in unplayed radio message

放送には入ってなかったですが、以下の動画で聞けますね。

SIDE-BY-SIDE: Verstappen and Hamilton’s final lap shootout for drivers’ title

メルセデスはさらに上訴する構えを見せているようですが、まあおそらくこの結果が覆ることは無いでしょう。FIA側のメンツの問題もありそうだし、サーキット外でタイトル争いの結果が覆るコトは多くの人が望んでいないでしょうしね。もちろんハミルトンにも思うところはあるでしょうが、逆に言うと彼は来年この経験をバネにさらに強いドライバーになってくるだろう、とも思うわけです。

そしてもちろん、フェルスタッペンにも今年のチャンピオンたる資格は十分にあったわけです。ハミルトンと同ポイントで最終戦までやってきたのだし、レースペースで勝ち目が無いというコトが見えてしまってからも腐らずに最後までできる限りのコトをやったからこそ最後のフリーストップを得られたし、逆転の目が出た。最後はマイケル・マシが余計なコトをしてくれた感はあるものの、あの絶妙なタイミング(?)でのラティフィのクラッシュは「演出」されたものではないでしょうし(クラッシュゲートという悪質な事例があるけど、ラティフィはメルセデス陣営だし……)、そうした「神の見えざる手」のようなものって時としてあるものですよね。

ホンダにとってのラストレースでもあった今回、彼らが最後の最後に手土産をひとつ持ち帰ったコトもそれはそれで良かったと思います。マクラーレンとジョイントした時はどうなるかと思いましたが、最終的にこうした一つの到達点を迎えてF1を去れる、というのは日本のファンにとって良い結末だったと思います。

来年以降もホンダのDNA自体はレッドブル・パワートレインズに引き継がれるワケですが、果たして来年のメルセデスレッドブルの戦力分布はどうなるんでしょうね。ハミルトン vs フェルスタッペンの争いが激化するのか、そこにラッセルが乱入するのか、はたまた予想外のチームがトップに躍り出るのか……。

角田やペレスにとってもベストレースだった

そして今回のレースでもっともポジティブだったのは、角田の4位入賞だったんじゃないでしょうか。決勝でもガスリーの前でフィニッシュできて、かつ自己ベストの4位入賞ってシーズンの締めくくりには最高すぎる展開でしたね。アルファタウリの2台も土壇場のセーフティカーで上手いことフリーストップでソフトタイヤに交換するコトができ、前にいたボタスは古いハードタイヤのまま身動きが取れずにファイナルラップ、そして角田とガスリーが相次いでメルセデスオーバーテイクするという、トップの2台さながらな展開だったみたいですね。

2021 Abu Dhabi Grand Prix: Tsunoda grabs brilliant P4 with last lap overtake on Bottas(動画)

ボタスをオーバーテイクする際には軽く接触があったようにも見えますが、冷静でしたね。さらに目の前にはサインツも居て、これをオーバーテイクできれば表彰台だったんですが、さすがにそこまでは及びませんでした。ただ、シーズン終盤に見せた予選の安定した速さと、この最終戦での力強いレースぶりは来年に向けての大きな材料になりますし、本人の自信にも繋がるでしょう。

あとホンダ陣営でいうと、やはりペレスの奮闘ぶりというかチームのために戦う様はまさに職人芸、プロでした。

2021 Abu Dhabi Grand Prix: ‘Absolute animal’ Pérez holds up Hamilton in amazing wheel-to-wheel duel(動画)

徹頭徹尾フェルスタッペンのサポートに徹したペレス「正直王座争いには干渉したくなかったけど……チームのために戦うのが僕の仕事」

DRIVER OF THE DAYは今回ラストレースだったライコネンが取りましたが、レースの内容からすれば個人的にはペレスを推したいですね。くたびれたソフトタイヤで、タイヤを履き替えたハミルトンにあそこまで抗ってみせたってだけでもスゴイ。オマケにそれによって自分のレースは台無しになっちゃったんだけど、あくまでチームプレーに徹するところはホント頭が下がります。プロフェッショナルですね。

ともあれ

本当に近年まれに見る盛り上がりを見せたF1でしたが、最後にまた歴史に残るようなレースが展開されてしまい、よくも悪くもお腹いっぱいです。本当にボリュームのある一年でしたし、そういう意味では素晴らしいシーズンでした。まータイトル争いになんとも言えない人為的な判断が横槍を入れるという展開もF1では過去に何度かあった話でもありますし、そう考えると「これもまたF1」なのかなあとも思います。そうした混沌も含めてF1が好き、というのは正直ありますので、これに懲りずまた来年以降もF1を楽しんでまいりたいと思います。

来年はどんなシーズンになるのか、もういろいろ期待しちゃいますね。そろそろ鈴鹿にF1帰ってきて欲しいなあ……。

F1ファンの皆様、今シーズンもお疲れさまでした。また来シーズンも、よろしくおねがいします。