大須は萌えているか?

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伊藤計劃の小説を読んでみた

小説、特にSF小説が好きな方からすると「何を今更」な話だと思うんですが。

普段ロクに活字の本なんて読まない私なんですが、知り合いに「伊藤計劃(いとう けいかく)って作家の小説、面白いから読んでみ」と言われ読んでみました。知り合いに勧められたから、というのもあるんですが、調べてみたらこの方、メタルギアソリッド(MGS)シリーズの小島秀夫の大ファンだったそうで、MGS4のノベライズも執筆しているというコトを知り興味が湧いたので。

4Gamer.net ― 小島秀夫監督が“自分の分身のような存在”と評したSF作家,故・伊藤計劃氏とは?「伊藤計劃記録:第弐位相」刊行記念トークショーをレポート(METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS)

伊藤計劃本人は癌を患い、2009年に34歳の若さで亡くなっているとのコトで、書籍として出版されている長編小説はMGS4のノベライズを別とすれば『虐殺器官』と『ハーモニー』の二作のみ。どちらの作品も文庫化されてます。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
リエーター情報なし
早川書房
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
リエーター情報なし
早川書房

虐殺器官』は、もし人間の中に「虐殺の衝動を引き起こす器官」というものが先天的にあったとしたら……という話。そして『ハーモニー』は「大災禍(ザ・メイルストロム)」という未曾有の危機を経験した人類が、その反省から死というものの存在を極力遠ざけた高度医療社会を実現したが……という話。『虐殺器官』では死をまき散らす世界の話、『ハーモニー』では死を遠ざける世界の話という形で2つの作品が対になってる感じですね。なので、読むんだったら片方だけではなく両方読むべきだろな、と。

普段SF小説なんてモノに馴染みの無い私ですが、これらの作品は思いの外面白く読むコトができました。まず、いずれの作品も一人称で書かれており、キャラクターに感情移入して読みやすい。あと、著者がMGSシリーズの大ファンというコトもあって、MGSシリーズをプレイしている人ならピンと来るであろうガジェットやギミックが登場してきたりもして、比較的その世界観にとっつきやすい。

さらには真面目なストーリーの中にさらりとゲームやアニメのパロディネタが仕込まれてて、なんかそのネタの差し込み方もMGS的な感じがして思わず読んでてニヤニヤ。『ハーモニー』では私の大好きなパトレイバー2のパロディがあってツボに入りまくり。

しかし、これらの作品は単に「MGSっぽい作品」というワケではなく、癌と闘病しながら作品を執筆したという著者ならではの、「死とはなにか」、「医療とは、健康とはなにか」、そして「人間とはなにか」という切実な問いかけが伝わってくる感じがしました。著者が既に亡くなっているのは非情に残念なのですが、その死を目前にした環境ゆえにこれだけの作品が書けたのだとしたら、なんだか皮肉な話です。

好き勝手に振る舞えるけど早死にするか、自由は無いけど長生きするか、どちらか選べと言われたらどっちがいいかな……。