大須は萌えているか?

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ヨッピーの『明日クビになっても大丈夫!』を読んでみた

WEBでちらほらと話題を見かけていたので、なんとなくKindle版読んでみました。

明日クビになっても大丈夫! (幻冬舎単行本)
リエーター情報なし
幻冬舎

タイトルだけ見ると、仕事との接し方に悩むサラリーマン全般に向けて書かれているような感じがしますが、読んでみた限り「脱サラしてフリーランスになりたがってる人向け」という印象を受けました。

著者のヨッピーさん自身が、大学卒業後東証一部上場企業の商社に勤めたもののその企業文化に嫌気が差し、昔からWEBにテキストを書いていたコトも手伝ってWEBライターの世界に足を踏み入れてみたら思いの外水が合ってしまい、そのまま会社辞めてWEBライターの道を邁進してきたという経歴の持ち主であり、その実体験を元に書かれている本なので、基本的に「大企業の文化はクソ」「フリーランス最高」という価値観で書かれております。

なので、「今自分が勤めている会社は気に入っているけど、なんとなく将来が不安」という人にはあまり合いません。

終身雇用が崩壊して会社が社員を守ってくれる時代でも無いんだから、本業以外に自分の好きなコトでお金を稼ぐコトにチャレンジすべし。それが軌道に乗ってきて、本業以上に稼げそうな手応えを得たなら会社なんて辞めてしまえ、というのが、この本の大まかなスタンス。ただ、いきなり会社辞めてフリーランスの世界に挑むのはリスクがでかすぎるから止めておけ、とも言っています。その辺のバランス感覚はまとも。

ただ、言うのは簡単なんですが、当然コレ誰にでもできるような話じゃないワケです。本業とは関係の無い副業を始めようと思うと、個人的にまず一番イヤだなぁと思うのは可処分時間が一気に減るコト。いくら好きなコトとは言っても、それでしっかり稼ごうと思うと平日の夜とか、週末の相当な時間を割く必要が出てきます。ヨッピーさんは土曜出勤も多かったという商社勤めの傍らで、残りの休みを潰しながらライター稼業をしていたそうですが、正直こんなの無理。

それが続けられるのは「好きだから」というのが一番の理由なんでしょうけど、好きなもののためなら自分の可処分時間の大半を捧げてもOK、という人はやはり限られると思うのです。例えば私はF1が好きですけど、土日ぶっ通しでF1の過去レース観たりデータを分析してWEBで情報発信できるか、と言われたらもう絶対無理なワケです。発狂します。アニメとか観たいし本も読みたいしたまには外に出掛けたいワケです。

ヨッピーさんは『「好きなものが見つからない」という人は、単にまだ気づいていないだけ』と書いているんですが、それはかなりマッチョな論理であるように思います。

また、ヨッピーさんは副業を本業にする(=会社辞めてフリーランスになる)条件のひとつに「会社員をしながら副業で半年程度、月10万円以上稼いでいる」コトを挙げていますが、それでもまだフリーになるのは危ういんじゃないかなぁ、という気がしちゃうんですね。フリーランスの収入について、

「収入を10%上げる」という事はサラリーマンの頃よりも、フリーランスの方がハードルは低いと思う。下手すれば口先三寸、「もうちょっと色つけてくださいよ~」と一言お願いするだけで10%の値上げに成功したりするし、メール1本で予算が10万円増えたりするのだ。サラリーマンの月給はそう簡単には上がらない。

via『明日クビになっても大丈夫!』 Kindle版 第二章より

とも書かれているんですが、簡単に収入が上がる、というコトは、簡単に下がる、というコトの裏返しでもあります。半年に渡って月10万円稼げたからといっても、数年先の収入がどうなっているかなんて、余程の売れっ子にでもならない限りはわからないのがフリーランスではないかと。特にヨッピーさんがやってるWEBライターとか、YouTuberとかって人気商売でもありますからね。

ただ、そこは世間のニーズや時代の流れを読んで戦略的に動けば、ライバルだらけの消耗戦に巻き込まれるコトなくそのポジションをキープできる、とも説いています。この戦略論はなかなか興味深いんですが、じゃあなぜ皆そこまで戦略的に動けないかといったら、いろんな「しがらみ」に囚われてしまうからでしょう。個人も企業も。AppleAmazonが日本でも爆発的にシェアを伸ばしたのは、日本の既存の枠組みや商習慣に囚われない商売を持ち込んだからであって、ヨッピーさんのライターとしての強みも「自分のポリシーを曲げない」というところにあるんだろうな、と。

ただ、これも誰もがマネできるか、というとそうはいかないところで。あと、個人のフリーランスの怖いところは、一度戦略を見誤るとそのツケが全部自分に降りかかってくるというところです。それに、日本の企業だって別に戦略的視点を欠いてるところばかりかと言えば、別にそんなコトは無いワケで。ヨッピーさんは「自動運転が普及したら、トヨタだって安泰ではいられなくなる」と言ったりもしてますが、トヨタ自身も自動運転にもAIにもEV(てかトヨタオハコのハイブリッド技術の延長線上だ)にも投資してるし、FCVでは他のメーカーに先行しているワケです。個人のフリーランスとは比較にならないレベルの「戦略」だと思いません?

こういう論調を見ると、ヨッピーさんも無駄にサラリーマンの危機感煽ってんな、という感じがしてちょっと萎えます。

個人的には、サラリーマンとしてのリスクヘッジを考えるならば、「ヨソでも通じる経験を積める会社に勤めて、本業に邁進する」が一番無難だろなぁと思いますけどね。その方が休みもちゃんと取れるし。東芝だって今じゃご覧の有様ですけど、そこに勤めてるエンジニアにトヨタがラブコール送ったりしてるじゃないですか(⇒ トヨタの求人広告、JR南武線沿線の通勤客を狙い撃ち : 市況かぶ全力2階建)。世間のニーズや時代の流れを読んで動けば大丈夫、ってのは、サラリーマンにも言えるコトです。別にフリーランスの特権なんかじゃない。

逆に、その会社特有のヘンテコなスキルしか積めない、ヨッピーさんのようにその会社の文化が嫌で嫌で仕方が無い、あるいは仕事が忙しすぎて可処分時間がロクに無い(いわゆるひとつのブラック企業)に勤めている場合は、副業とか言わずにさっさとその仕事辞めて転職すべき、と思いますけどね。あるいは、そういう失うモノが無い状態からダメ元でフリーランスに挑戦してみるのはアリなのかもしれませんが。

あと気をつけたいのは、フリーランスで何年か食えたけど、その後厳しくなってきたから再就職したいと思った場合、結構ハードルが高くなる可能性があるってコトです。フリーランスでどういう経験を積んだかにもよりますけど、「ブログの広告収入で食ってました」なんて言っても企業は評価してくれませんからね。余程有名な媒体で書いたりしてない限りは、「フリーライター」もいい顔されないと思いますけど。むしろ、「会社勤めには向いてない人間」としてマイナス評価される恐れもあります。

それを避けるためには、なるべく多くの人脈を作っておいて、いざとなればコネで入れてくれる会社の目星を付けておくコトでしょうか。でも、それも年食ってきちゃうと段々厳しくなってきそうですしねぇ。40代くらいまでで一生分のお金を稼いで、あとは遊んで暮らせれば一番良さそうですが……それはさすがに夢物語だわなぁ……。