大須は萌えているか?

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清水潔『殺人犯はそこにいる』『桶川ストーカー殺人事件』を読んだ話

Amazonのプライムビデオで配信されているドラマの筋書きが、過去に出版されたノンフィクション作品の内容と酷似しているというコトで騒ぎになっているようで。

新潮社、Amazonドラマ「チェイス」配信中止要請 『殺人犯はそこにいる』と酷似 - ITmedia NEWS

これ、昨年末にも新潮社が「うちの本とドラマは何の関係も無い」という声明を出しており、そこからさらに話がこじれていってしまってるみたいですね。ドラマの「パクり元」とされている『殺人犯はそこにいる』は2013年に出版された本なんですが、読んだコト無かったので年末年始にKindle版を読んでみたりしていたのでした(Amazonのドラマがパクったとされる本をAmazon電子書籍で読むという暴挙)。

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)
リエーター情報なし
新潮社

副題として『隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』とありますが、過去に冤罪事件として大きく報じられた「足利事件」を含む、栃木・群馬の県境付近のエリアで1979年から1996年に渡って起きている、5件の幼女が誘拐・失踪している事件を同一犯によるものと推論し、その真犯人に迫る……という内容。その取材過程の中で著者は足利事件が冤罪であることを見抜き、キャンペーン報道により再審を開始させる大きなトリガーの役目も果たしているというのがすごい。

著者は真犯人と思われる男を見つけており、その男に直接取材を行ったり、警察に情報を提供もしています。……が、その男は結局逮捕されていないワケですが。本書を読む限りでは、その男が限りなく黒に見えるのに、なぜ警察は動かないのか。実は、真犯人を捕まえてしまうことによって、過去に警察が犯した取り返しのつかないミスが発覚してしまうからではないか……というの著者の推論。その論理に破綻は無いし、非常に納得のいく内容でした。

んで、この本が非常に読み応えのある内容だったので、同じ著者がさらに昔に出していた『桶川ストーカー殺人事件―遺言』という本も読んでしまいました。

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)
リエーター情報なし
新潮社

こちらは1999年に起きた「桶川ストーカー殺人事件」の取材を元に書かれた本。著者の清水潔氏は元々写真週刊誌「FOCUS」の記者であり、FOCUS休刊後に日本テレビに移ったのだそうで。んで、「桶川ストーカー事件」はFOCUS時代、「北関東連続幼女誘拐殺人事件」は日テレ時代に取材した内容となっています。

この『桶川ストーカー殺人事件』もスゴイ内容で、著者が取材の過程で警察より先に真犯人に辿り着いてしまうという。それと共に、警察の極めて杜撰な対応も浮き彫りにし、FOCUSの記事が国会でも取り上げられて警察から3人の懲戒免職者まで出したという。

この2冊の本に共通して見えてくるのは、警察とマスコミの中にある暗い闇の部分。なぜ警察は真相をもみ消そうとするのか、またなぜマスコミは警察の発表を鵜呑みにして、その失態をなかなか報じようとしないのか。どちらも、「組織の論理」というヤツが深く関わってきます。

ただ困ったコトに、自分自身かれこれそれなりの年数サラリーマンなぞやっていますと、この「組織の論理」がまかり通ってしまう理由が分かっちゃうんですよねえ。納得はしないけど。その論理に逆らうというのは地雷原をダッシュで走り抜けるような行為に等しく、誰だってそんな危ない橋を渡りたくは無いワケです。そこを敢えて渡って行ったのがこの著者なんですが、そこには著者が記者クラブに所属していなかったからむしろ動きやすかった、という背景もあったようです。

警察は記者クラブに所属しているメディアにしか情報を流さないため、最初から自分の足で情報を稼ぐしかない。逆に、記者クラブに所属している場合、警察に睨まれるようなコトをするとクラブを追い出されてしまうので、迂闊なコトは書けない……みたいな。

組織の論理に逆らおうとするならば、それに対抗しうるだけの入念な準備が必要。この2冊の本は、その過程を記録していったものであり、なかなか他で読めるモノじゃありません。しかもノンフィクション。

読むとまず間違い無く「警察もマスコミもクソ」と言いたくなるコト請け合いなんですが、ただ警察やマスコミがそうなっちゃう理由もなんとなくわかっちゃうのがねぇ……。結局どんな高邁な理想や目的を持った組織でも、それを日々動かしているのは膨大な数の人間であり、そして人間とは決して高潔な生き物ではないワケで……。

そういう意味では、会社という組織に所属している自分自身が組織の論理に直面したとき、どう振る舞うべきなのかが問われているような気もしました。なんか年を重ねてくるとさー、正義感よりも「楽して生きたい」っていう気持ちの方が強くなってきてさー(ハイパーダメ人間)。

なお、この2冊の読み応えがスゴかったので、プライムビデオのドラマ『チェイス』はまったく観てません。