大須は萌えているか?

gooブログからこっちに移動しました

日本や中国のモバイル決済・信用ビジネスの概略がわかる2冊『キャッシュレス覇権戦争』と『キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影』

Kindleでたまたま目について購入してみた本。

キャッシュレス覇権戦争 (NHK出版新書 574)
岩田 昭男
NHK出版

2019年の2月に出版された本なので、「ペイペイ祭り」みたいな最近のバーコード決済ブームの話題も書かれてますし、近年の各地に於けるキャッシュレス決済導入への動き、米国や中国でのキャッシュレス事情、そこに絡む信用ビジネスの話、さらにGAFAや国が情報を大量に抱え込むコトにに対する懸念、といった感じに、キャッシュレスの話題に留まらず、そこから見えてくる情報監視社会の問題点までを網羅的に紹介している本になります。

それぞれの概略をざざーっとまとめた感じになっているため、掘り下げた内容を求める人には物足りない気もしますが、「キャッシュレス」「個人情報」周りの最近の事情を概観したい、という人には良い内容かと思います。

個人的には、中国の話が興味深かったですね、なんせ中国社会のことなんてぜんぜん知らないので。深圳がスゴい、みたいな話はネットで見かけたことありますけど、あとは「アリペイ」とか「ウィーチャットペイ」あたりの名前は聞いたことある……程度。中国のキャッシュレス化がものすごい勢いで進んでいる、っていうのはちらほら見かける話題ですが、なぜそこまで爆発的に普及したのか、という流れがざっくりまとめられています。

まず、もともと中国ではクレジットカードが普及しておらず(一部の富裕層以外、与信審査を通るだけの経済力が無かった)、デビッドカードが主体だったこと。また、スマホの購入には身分証明が必要で、購入したスマホそのものが身分証明書に成り得たこと。それゆえ、スマホプリペイド方式の決済機能の親和性が高かったこと。また、この本の中では触れられてませんが、アリペイにお金をチャージしておくだけで4%の利子がつくというのも、消費者にとっては大きなメリットのようで。そりゃチャージしとくだけで利子がつくなら、とりあえず目一杯チャージしておくわ……。

そしてこの本を読んでいるうちに、中国の話をもうちょっと知りたくなってしまい、適当にAmazon検索して買ってみたのがこちらの本。

キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影 (文春新書 1213)
西村 友作
文藝春秋

こちらは中国の大学で教鞭を執る著者が、現地から見た「中国新経済」の現状をまとめた本。モバイル決済の普及状況、それにより出現してきた新しいビジネスや社会問題、そもそも中国が「イノベーション駆動型」の社会へと舵を切った理由、それから「信用ビジネス」の現状……といった内容がまとめられています。

中国の内部から見える、モバイル決済を中心とした中国社会の現状が、良いところも悪いところもフラットにまとめられていて読みやすい本でした。中でも興味深かったのは、第4章にまとめられている「信用スコア」の話ですね。最近、日本でも「Yahoo!スコア」なんていうサービスが開始されて物議を醸しておりますが(⇒ ユーザーの行動から“信用度”算出「Yahoo!スコア」はデフォルトで「オン」 拒否する方法は - ITmedia NEWS)、中国ではもうすっかりこの手の信用スコアによる格付けビジネスが定着しているよ、という話。

元々クレジットカードなんかでは、ユーザーの利用履歴に応じて顧客をランク付けし、ランクの高い人ほどローン金利が安くなるといった特典が付帯されてきたワケですが、それを参考に中国のアリババグループが始めたのが「芝麻(ジーマ)信用 」。「ジーマ」は胡麻のことなんだそうな。

芝麻信用の場合、アリペイの支払い履歴なんかはもちろんのこと、学歴・職歴・保有資産・交友関係なんてものまでがスコア算出の材料に使われるというのだから驚き。どこまでの情報を開示するかはユーザーに一任されているようですが、開示する個人情報が多ければ多いほど、スコアを上げるうえでは有利に働くというワケですね。

んで、クレジットカードと同様に、スコアが高ければ高いほど様々な特典が用意されているようで、クレジット(後払い)決済が利用できるようになったり、レンタカー等のデポジットが不要になったり、海外旅行のビザ取得がオンラインで可能になったり等々、他にも段階に応じたメリットが諸々あるそうな。

元々中国は一部の富裕層以外はクレジットカードも持てなかった、というくらいですから、一般庶民が「信用されてない」社会だったワケですね。そこに、諸々の行動履歴や交友関係、資産状況をオンラインに記録してくれれば、それらの情報を元にスコアを出して、あなたがどれだけ信用できる人間かを証明してあげるよ、と。今までローンを組みたくても組めなかったような人にしてみれば、ありがたいサービスというコトにもなるんでしょう。一般庶民でもわりと普通にクレジットカードが持てて、会社勤めしていればローンも組める日本人とはかなり感覚が違うのかもなあ。

一方、中国政府もかなり前から社会信用情報のデータベース構築を進めているようで、最近では民間の信用情報も取り込んでいくような思惑も覗かせている、といった話も紹介されています。……つまりアレですかね、日本でいうと楽天Amazonで購入した買い物履歴なんかも政府にダダ漏れになるってコトですかね。イヤだ、イヤすぎる。

ただ、信用に値すると認められた人間には、相応の社会的なインセンティブが与えられる、というコトでもあります。そこに魅力を感じる人、スコアを上げていく自信のある人には、悪く無いシステムなのかもしれない。ただ、それは政府が定義する「良い国民」としての振る舞いをし続ける必要がある、というコトでもあるワケですが……。

信用スコアに関する話は『キャッシュレス覇権戦争』でも触れられておりますし、日本でも続々と似た様な試みが始まっているという事例も紹介されており、そしてその矢先にYahoo!が下手こいて悪い意味で話題になってしまっているのを見ると、日本ではいったいどういう形でこうした信用ビジネスが定着していくのだろう、と気になるところではあります。どうも、中国人の方がこうした個人情報を開示するコトには抵抗が無いようで、これは果たして中国人がアバウト過ぎるのか、日本人が過敏すぎるのか、どっちなんでしょうか。

決済がどんどんキャシュレス化され、様々な手続きがどんどんオンライン化されていく流れはもはや止められず、そうなれば知らないうちに自分の行動履歴はどんどんオンラインに記録されていくワケで、日本でもそれを利用したビジネスが盛り上がっていくというのも止められない流れなんでしょう。気になるのは、ユーザーが提供する情報が適切に保護・運用され、またユーザーに対して魅力的なインセンティブが提示されるのか、といったところかな。

なにせ日本だと、企業がこんな個人情報を収集しています、って聞くだけでヒステリックな反応する人も結構居るし、遍くユーザーに受けれてもらうには中国以上の工夫が必要かもしれませんね。中国は庶民にとっては元々不自由な国だったからこそ信用スコアによって得られる利便性に注目が集まり、一方日本は庶民でもそんなに不自由が無い国だったからこそ個人情報を開示するリスクの方に注目が集まっちゃう、というコトなのかなあ。