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井出のスーパーライセンス剥奪の件をグロージャンに当てはめるべきじゃない

F1ベルギーGP後、なんだか「井手 ライセンス剥奪」とかってキーワードでこのブログにたどり着く人が増えたみたいです。そういやずいぶん前に、スーパーアグリから参戦していた井出有治スーパーライセンスを取り消されるなんていう一件がありましたねぇ……。それに関するコトをブログに書いたような気がしないでもない。6年前の話になりますけど。

なんで今更井出の話が出てくるとかっていうと、やっぱりグロージャンの一件でしょうね。かつて井出が経験不足を理由にスーパーライセンス取り消されたんだから、スタートでこんだけやらかしまくってるグロージャンも同等の処分が下って然るべきじゃないの?っていう。

ただね-、これは正直比較するべき案件では無いと思いますよ。なんでかっていうと、井出の件はとにかくイレギュラーなんですよ。そもそも長い歴史のあるF1の中で、シーズン途中でスーパーライセンス取り消されたのって井出だけですからね。通常「あり得ない」処分なんですよ。

んで、なんで井出の時にはそのあり得ない処分が下ったのかというと、大きく3つの要素があるのかなと。

まずひとつは井出自身の経験不足。フォーミュラニッポンでは最高シリーズ2位を獲得するなど十分な実力を持っていた井出ですが、当然F1の経験はまったく無し。スーパーアグリに乗った彼の走りは贔屓目に見ても十分なレベルに達してませんでした。これは後述するチームの事情もあったんですが。井出の降板が決まったときのライコネンのコメントを引用しますと……

ライコネンはロイターに「モナコではちょっとした惨事になったかもしれない。彼はナイスガイだが、とても遅いし何度もスピンする。だから自分のすぐ前に彼がいたらいつスピンするのかわからないよ」と語っている。

via: 井出有治 急遽交代に対するアルバースのコメント : F1通信

他のドライバーからは井出に同情的なコメントもあったんですけど、それは十分なテストが行えない環境に対するもので、井出が実力者であると評するコメントは無かったよーに思います。

そしてふたつめにチーム事情。スーパーアグリというチーム自体がわずか数ヶ月で準備された急造チームであり、十分な準備期間も資金もないまま見切り発車した状態。当然井出にはテストをする余裕も無かったし、ほとんどぶっつけ本番状態。オマケに、当時のスーパーアグリのマシンが空港に展示されていた4年落ちのアロウズのマシンをムリヤリ改造して出来上がったシロモノだったのは有名な話。チーム自体もマシンもまともな状態じゃないのに、さらにそれを駆るのがルーキードライバーという、そりゃハタから見たら懸念を抱かざるを得ない状態だったワケです。マシンがまともじゃないならせめてドライバーは経験のあるヤツ乗せろ、と言われても仕方無い状態。

みっつめは政治。井出が降板となる直接の契機になったのは、2006年シーズンの第4戦サンマリノGPでミッドランドF1をドライブしていたクリスチャン・アルバースとの接触事故。元々そのドライビングが不安視されていた井出が、アルバースを強引に追い抜こうとして横転させてしまったんですね。ただ、この時は井出に対し譴責処分が下っただけでした。

ところが、次戦ヨーロッパGP前になってFIAスーパーアグリに対し「井出はテストドライバーとして経験を積ませるべきである」と「アドバイス」。もちろん「アドバイス」と書いて「事実上の命令」と読みます。これに従い、チームはヨーロッパGPにフランク・モンタニーを起用。するとヨーロッパGP終了後、FIAは井出のスーパーライセンス取り消しを通告。そしてスーパーライセンスの発給を再び受けるには、全チームの同意が必要だとも。

この流れは今見てもやっぱり不自然で、FIAがチームのドライバー人事に「アドバイス」するなんてのがそもそも異例だし、それをのませた後になっていきなりスーパーライセンス取り消しを通告するというのも変。チームは大人しくFIAの言うコトをきいて、井出に経験を積ませようとしたのに。この流れについてなんらかの政治的な働きかけがあったというコトが当時散々言われてましたし、「何か」あったコトは確かなんだろーなーと今でも思います。当時はまだF1に新規参入したがるチームの噂も結構あり、F1の参戦枠を巡ってはドロドロした動きもあったようです。真相は藪の中ですが。

これらの条件が重なり合った先にシーズン途中でのスーパーライセンス取り消しというミラクル(?)が発生したのであり、グロージャンの件に井出のケースを当てはめようとするのは無理筋というモノでしょう。ロータスルノー自体は経験豊富なチームだし、グロージャンも一応今シーズン3度の表彰台を獲得する実力を示しています。それに、井出の時ほどグロージャンのドライビングに懸念を示すドライバーって多くないんだよね。

もちろんグロージャンのドライブに問題が無いとは言いませんし、ベルギーの事故はヒドかった。ここから何を学ぶかはグロージャン次第ですが、ただ井出がスーパーラインセンス取り消しになったんだからコイツのも取り消せ、というのは同意しかねるなぁ、と。そういうお話でした。