大須は萌えているか?

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セナの事故から20年以上経った今語られること

先週NHKで放送されていた、『アナザーストーリーズ「アイルトン・セナ事故死 不屈のレーサー 最期の真実」』観ました。

事故に関する新しい事実が明らかになった……というワケではありませんが、当時セナの広報官を務めていたベアトリス・アスンソン(ウイリアムズのテクニカル・ディレクターだったパトリック・ヘッドの元妻)のコメントが聴けたのは良かったかな、と。彼女のコメントを聴いたのは初めてだったので。今まで口を開かなかった関係者がこうして取材を受けるだけの歳月が経ったのだなぁ、と思ったりもして。

ただ、番組ではセナの事故について、当時のハイテク禁止施策や、ワールドチャンピオンから遠ざかっていたセナの焦り、バリチェロ・ラッツェンバーガーの事故が相次ぎセナがかなりナーバスになっていた……といったエピソードが紹介されていましたが、個人的にはどれもセナの事故原因と直接的な関係は無いと思ってます。

先日、1年前に書いたセナの記事(⇒ アイルトン・セナの事故を引き起こしたもの)に非常に濃いコメントをいただき、事故当時セナが駆っていたウイリアムズFW16というマシンが持つキャラクターに興味が湧き、FW16に関する書籍も買ってみたりしました。

GP Car Story vol.07 ウイリアムズFW16・ルノー (SAN-EI MOOK)
リエーター情報なし
三栄書房

この「GP Car Story」というムック、値段が1000円そこそことお手頃で、書店で見かけると結構買ったりしているんですが、FW16のは持ってなかったんで。

セナの事故の直接的な原因はステアリングコラムの破損によるもの、とイタリアの裁判では結論づけられましたが、この書籍に掲載されているエイドリアン・ニューウェイのインタビューで、彼はその結論を否定しています。同様のインタビュー記事がWEBにも掲載されているので、そちらから引用すると……

「実際に何が起きたのかは誰にも分からないだろうというのが本当のところだ。ステアリングコラムが壊れたのは間違いない。問題はそれが事故で壊れたのか、それが事故を引き起こしたのかということだ。疲労亀裂が見られたので、どこかの段階で壊れただろう。デザインが非常によくなかったことは疑問の余地がない。だがあらゆる証拠が指し示すのは、マシンはステアリングコラムのトラブルによってコースオフしたわけではないということだ」

事故の原因についてニューエイは、非常に細かい分析の結果、「おそらく右リヤタイヤがコース上のデブリを踏んでパンクし」、そのためにマシンのリヤが「ステップアウト」したという結論に達したようだ。「最も可能性の高い原因をひとつ選ばなければならないとしたら、それを選ぶ」とニューエイは語った。

via: ニューエイが語る、セナの死への自責の念と事故原因 - AUTOSPORT web(オートスポーツweb)

また、書籍の中ではこんなコメントも。

あの時、オーバーステアになったんだ。タンブレロを直進したのはアイルトンがそれに気付いた後だ。これはアメリカのオーバルレースで時々見られる現象で、マシンがリヤのグリップを失い、ドライバーがそれを修正しようとするとマシンは直進してしまう。結果、彼のマシンは壁に激突してしまった。もしステアリングコラムが壊れていたら、あんな事故は起こりえないはずだ。

via: 『GP Car Story vol.07 ウイリアムズFW16・ルノー』 85ページより

オーバルコースでのオーバーステア発生⇒カウンター当てたら真っ直ぐすっ飛んでった有名な事例としては1982年インディ500のゴードン・スマイリーの事故(大変ショッキングな事故なので敢えてリンクはしません)なんかが思い浮かびますが、あのタンブレロでもそれに類似した現象が起きていたんでしょうか。

あの決勝レースのスタート直後、ベネトンのJ.J.レートのマシンがストールし、そこにロータスのペドロ・ラミーが突っ込むという事故が発生し、マシンのパーツが広い範囲にまき散らされていました。クラッシュの直前に撮影された写真には、タンブレロに向かっていくセナのマシン前方にマシンの破片が落ちているものもあり、何らかの破片を踏んづけていた可能性は十分考えられます。

以前書いた記事にいただいたコメントでも、タンブレロのコーナリング中にオーバーステアが出ているのが確認できる、と指摘をいただき、ここら辺にあの事故を読み解くカギがありそうです。

ちなみに、2010年に製作された『アイルトン・セナ ~音速の彼方へ』というドキュメンタリー映画では、タンブレロのコースアウト直前までのオンボード映像が収録されています(NHKの番組では、それよりもっと前で切られてた)。

アイルトン・セナ~音速の彼方へ [Blu-ray]
リエーター情報なし
ジェネオン・ユニバーサル

ただ、今となっては事故原因を断定できる材料がありません。そもそもニューウェイがパンクを疑っている右リヤタイヤはコンクリートウォールに激突した際はじけ飛んでしまいましたし、その後事故車両をイタリアの司法当局が長年に渡り差し押さえ、しかも保管状態が悪かったようでひどく腐食してしまい、ウィリアムズに返却された後フランク・ウィリアムズはこれを直ちに廃棄したとのこと(『GP Car Story vol.07 ウイリアムズFW16・ルノー』87ページ参照)。

セナのオンボード映像が事故当時なかなか公表されなかったり(最初は「録画されてない」なんて言われてた)、出てきたオンボード映像はコースアウト寸前で途切れていたり、FW16に搭載されていたルノーブラックボックスのデータが空っぽだったりと、事故当時から証拠隠滅を疑う黒い噂がずっと囁かれていたのも事実。あるいは、もうすこし時間が経った頃合いに、何か語り始める人が出てきたりするコトがあるんでしょうか。

ただ、セナの事故について、20年以上経った今一番コメントを聴いてみたいのは、あの事故の時セナのすぐ後ろを走っていたミハエル・シューマッハなんですけどね。セナの事故を最も間近で目撃した男、開幕からセナに強烈なプレッシャーをかけ続けた男、そしてセナがレギュレーション違反を疑っていたベネトンB194を駆っていた男。

もしミハエルが元気なままでいたら、セナ没後20周年の時になにか語っていただろうか、っていうのは結構気になっています。