大須は萌えているか?

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『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』を観た話

しばらく前に観にいったんですが、感想書くの忘れてた。一応ネタバレありです。

近所のシネコンで、『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』観ました。連休中だったのでシネコン自体はたいそうな混みようだったんですが、パトレイバー自体は結構空いてたりして。まー大半のカップルや女性客はディズニー映画でも観ていたんでしょうきっと。

劇場版に至るまでのTNGパトレイバーの一連のエピソードはスターチャンネルに加入して視聴済み、思いの外パロディ方向に倒した作風に少々驚きながらも初期OVA(アーリーデイズ)の空気を思い出しほっこりしながら観ておりました。

劇場版の前振りとなるエピソード12も柘植が登場するなどして『パトレイバー2』の続編としての期待値は十分、ワクワクしながら観にいった、んですが、個人的には物足りなかったなぁ、というのが正直なところです。

映画のパンフレットに掲載されている押井守のコメントに「長編劇場版は、この上ないほどシンプルな構造になっている。シリーズを観てない人でも問題なく楽しんでいただけるはずです」とあるんですが、確かにストーリーは『パトレイバー2』の続編とは思えないくらい分かりやすかった印象。

というのは、今回テロ騒動を起こすグループが、柘植の意志を継いでみたいなコトを言うもののさしたる思想的背景を感じさせず、柘植がやってみせた「一発のミサイルだけで東京を戒厳令下の状況に陥れる」という仕掛けも無く、強奪した武装ヘリでひたすらドンパチやらかす、というものだったので。

インタビュー記事なんかを読むと、この作品は実写ならではの情報量を元に、今の時代に沿った形で『パトレイバー2』を再構築したものと言えそう。押井守の言葉によると「差分」というコトだそうですが。

パト2』の続編であって、リメイクでもリニューアルでもないんです。『パト2』で起きたクーデターの16年後の世界。その16年の間に何が変わったのか、どう変わったのか、何が変わっていないのか。16年経っても変えてはいけないものが果たしてあるのか。いわば”差分”です。

via: 『パト2』と実写――二つの線の重なりに押井守監督は何を映したか「パト2と現在の差分を描くことがテーマだった」実写版『パトレイバー首都決戦』 (2) 『首都決戦』がアニメだったとしても同じことをやった | マイナビニュース

で、今の時代ではそもそも正義を掲げたクーデターなんて起きない、と。

押井監督の考える時代の傾向とは、「今の時代のテロリストってどんなものだろうと考えたときに、たぶん、正義を掲げてクーデターを起こす連中ではないと思った。もっとなんとなく気持ち悪いもの。何を考えているんだかよくわからないもの。それが今回の灰原というキャラクターになった」。

via: 押井守、『パト2』続編を実写で撮る理由とは? | ニュースウォーカー

そして、結局この灰原という女が何者で、何を考えてこのテロに参画したのかもわからないまま話は終わるんですよね。「それが今の時代の戦争だ」と言われるとそうなのかぁ……って思うしか無いワケですが、じゃあこれ自分の中で腹落ちしたかというと、してないんですよね。

いやさー、劇場版パトレイバーの敵役って、今作に限らず「1」の帆場暎一も「2」の柘植行人も、どっかしら幽霊めいているところあるじゃないですか。帆場は物語が始まったときには既に死んじゃってるし、柘植は物語の終盤になるまでその姿を現さず、ホントにこの人登場するんだろうかと不安になるレベルだし。

しかし、帆場の場合はその生前の足跡を追った松井刑事らと後藤隊長がその人物像を浮かび上がらせ、柘植の場合は同志だった荒川によってその思想が語られる。直接その姿を目にするコトが無くても、第三者手によってその思想にスポットライトが当てられていく。その流れが非常に面白かったワケなんですが、今作ではホントにその辺がすっこ抜けたまま終わっちゃう。

でも、全体的な映像は『パト2』のそれ。なので、美味しいところが欠落しちゃった『パト2』に見えちゃったのです。この欠落、この気持ち悪さが今という時代を反映しているとするならば、それはそれでわからんでもないですが、じゃあお話として面白かったかと言えば「えー……」という感じ。

パト2』の名シーンを実写でやってみた、という点では非常にサービス満点だし、今までのエピソード同様パトレイバーファンがニヤリとする場面も多いんですが、「それ以上の何か」が無かったというか。

何となく察しがつくのは、もしかしたらあいつ遊んでいるんじゃないか、ということ。人の命どころか、自分の命も。そうだとして、無差別にミサイルや機関砲を撃ちまくることで遊び足りうるのかと。多分ね、足り得るんだよ。足り得る部分が”時代”なんだよ。

日本でもしテロがあり得るとすれば、政治的な要求などではなくて、一人が勝手に戦争を始めることだと思うんですよ。すでに、現実に戦争をやっているヤツが出ている。通りがかりの人を刺しちゃったりね。それは言ってみれば彼らにとっての戦争なんだよ。戦争なんだから、動機なんて必要ない。

via: 『パト2』と実写――二つの線の重なりに押井守監督は何を映したか「パト2と現在の差分を描くことがテーマだった」実写版『パトレイバー首都決戦』 (2) 『首都決戦』がアニメだったとしても同じことをやった | マイナビニュース

遊びとしての、理由無きテロ・戦争を描く、それはそれで面白くはあると思うんですが、それならば『パト2』との「差分」として描くんではなく、新しい物語として描いた方が良かったんでは無いかなぁ、という気もするんですよね。

今作が『パト2』の続編として製作されたのはプロデューサーからの要望でもあり、また「基本的には痛快アクション映画」というオーダーもあったみたいで、そこに押井守の考える「現代の戦争」というテーマが乗っかってこうなった……結果、なんか中途半端なモノになってしまったんじゃないかなぁ、というのが私の印象です。

いやもちろん、パトレイバー好きとして観て損は無い映画だった、とは思うんですけどね?いっそ、押井守に最初から最後までやりたいようにやらせたらどうなるか、気になるところです。それはそれでスゴイことになりそうですが。