大須は萌えているか?

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ポピュリズムという言葉の意味を知りたくて読んでみた一冊『ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か』

トランプ政権爆誕以降、「ポピュリズム」って言葉をよく耳にするようになり、最近では日本国内のニュースとしてもよく聞くワードになりつつあったりして。政治には疎いので、「大衆迎合主義」のことをポピュリズムっていうのかなー、くらいの認識しか持っていなかったんですが、この言葉の意味をもうちょっとちゃんと知ろうと思って呼んでみた一冊。

ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)
水島 治郎
中央公論新社

岩波書店からも同名の翻訳本が出ていますが、こちらは日本の政治学者の方が執筆した新書になります。

内容的には、まず「ポピュリズム」の定義から始まり、そこからアメリカにおけるポピュリズムの始まり、それからヨーロッパ各国におけるポピュリズムの広がり、そこからさらにグローバル化していくポピュリズムアメリカのトランプ旋風や日本における維新ブーム)の流れを概観している感じ。刊行されたのが2017年4月なので、昨今日本のニュースを騒がせている「れいわ新選組」や「NHKから国民を守る党(N国)」は出てきません。

まず印象的なのは、本書の冒頭に引用されている

ポピュリズムは、 デモクラシーの後を影のようについてくる」

via: 水島治郎. ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書) (Kindle の位置No.9-10). 中央公論新社. Kindle 版.

という、イギリスの政治学者マーガレット・カノヴァンの言葉。ポピュリズムは民主主義の敵だとか言われるコトもありますが、むしろ切っても切り離せない関係だというワケですね。19世紀末からアメリカで巻き起こったポピュリズム運動は、少数支配から大衆を解放する起爆剤の機能を果たし、現代のポピュリズムにおいても「民主主義の敵」を排撃する(イスラム移民など)形をとることも多く、むしろ(なりふり構わず)民主主義を大事にしているとも取れる。

ポピュリズムの定義には大きくふたつあるといい、ひとつは

固定的な支持基盤を超え、 幅広く国民に直接訴える政治スタイルをポピュリズムととらえる定義である。

via: 水島治郎. ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書) (Kindle の位置No.136-137). 中央公論新社. Kindle 版.

とし、もうひとつは

「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動をポピュリズムととらえる定義である。

via: 水島治郎. ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書) (Kindle の位置No.146-147). 中央公論新社. Kindle 版.

としています。このふたつは背反するものではなく、両立しうるものですね。ふたつめの定義は「人民」vs「エリート層」(「上級国民」といったほうが今風か?)というわかりやすい二項対立の図式であり、こういうのが「大衆迎合主義」とされる所以なのかもしれません。

この本では、主にこの「人民」vs「エリート層」の観点から、世界各国のポピュリズムの広がりを見ていくことになります。今の日本でいう「れいわ」なんかは「既存の政治体制の批判」と「弱者の救済」を強く打ち出しているあたり、なんかとてもわかりやすい感じがあります。逆にいうと、ポピュリズムは「既存の政治体制の批判」からスタートするため、そのときの政治体制次第で右にも左にもなる、というコトですね。

こうしたポピュリズム政党を支持したくなる気持ちというのは理解できるところがあって、結局のところ今の政権与党に対する失望感と、そこに一石を投じたくなる心理というのが大きい気がします。間接民主主義の弱点って、「自分の一票がなにか政治に影響を与えているんだろうか?」って疑問を持ちやすいところなんじゃないかと思うんですね。

自分の住んでいる選挙区ではいつも同じ政党のオッサンが当選し、国会でいつも同じようなやりとりをしている。自分の生活は大して良くもならないのに、総理大臣の疑惑や自民党議員の不祥事はあれこれ報じられる。こんなんじゃアホらしくて選挙行く気にもならない……というのが、昨今の投票率の低さの一因でしょう。

そこに、今の政権を痛烈に批判し、弱者のための政策を強く打ち出して話題を振りまく政党が出てきたら、「こいつらが政権を獲ることが無いとしても、予想以上の票を集めたりしたら話題になるだろうし、与党の連中もちっとは態度を改めるだろう」……みたいな感覚で票を投じるコトはあるかなーと。いやホントに政権を獲らせようと思って投票している人もいるでしょうけど。

特に今の日本だと、強力な野党がまったく居ない、「自民一強」の状態になってしまっているため、自民に冷や水を浴びせたくても、その気持ちを持っていく場所が無いんですよね。そういうとき、「それホントに実現できるんかいな」という政策を掲げていたとしても、弁舌巧みな党首がエネルギッシュに、痛烈に現在の政権を批判し、今の政権からないがしろにされている、と感じている層の意見をすくいあげる姿勢を明確に打ち出せば、そりゃ魅力的に映りますよ。

本書では、現代ヨーロッパにおけるポピュリズムの広がりに対して

このような左右政党の接近、既成政党の「同質化」現象を背景に躍進を果たしたのが、各国のポピュリズム政党である。ポピュリズム政党は既成政党を「同じ穴のむじな」と見なし、既成政治批判を掲げることで、有権者の不満を一手に引き受け、政治的に表現するまたとない機会を提供した。

via: 水島治郎. ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書) (Kindle の位置No.796-798). 中央公論新社. Kindle 版.

と論じています。日本の場合も、既存野党が力を失っていったのは「結局こいつら自民と変わらん(あるいは自民よりヒドい)」という失望感があったのも間違いなく、そういう意味では似た様な状況に見えますね。自分らが政治的に「置き去りにされた」と感じる人たちと、政権との断絶がイギリスのEU離脱決定という形で顕在化してしまったりもしました。

じゃあ、ポピュリズムがまったくの「悪」なのかというと、そうとも言い切れないところがあるでしょう。

ポピュリズムの比較研究を行ったミュデとカルトワッセルは、デモクラシーの確立した先進諸国においては、ポピュリズム政党の進出がデモクラシーに明らかな悪影響を与えるとはいえない、とする。特にポピュリズム政党が野党にとどまる場合には、どちらかといえばプラスの影響をデモクラシーに与えるのではないか、と論じている。

それはなぜか。ポピュリズム政党が進出することは既成政党に強い危機感を与えるが、それは既成政党に改革を促す効果を持つ。ポピュリズム政党の批判の矢面に立たされた既成政党は、その批判をかわし、支持層のポピュリズム政党への流出を防ぐため、自らの改革を迫られるからである。

via: 水島治郎.ポピュリズムとは何か-民主主義の敵か、改革の希望か(中公新書)(Kindleの位置No.2637-2642).中央公論新社.Kindle版.

これは確かにそうなんですよね。政権与党が他の野党に脅かされることなく、ずっと政権の座に安穏としているのでは、権力の腐敗は止められないでしょうし。うかうかしていると国民に愛想尽かされる、という緊張感を持って仕事してもらわないと困りますし、選挙においてそういう国民感情を表明する受け皿として、ポピュリズム政党は有効に機能するように見えます。

ただ、その勢力がどんどん拡大してきたときにどうなるか。ポピュリズム政党はその支持を拡大するために、タブーを恐れず強硬的な主張をするコトが多く、それが少数である間は「適度に緊張感を与えるスパイス」くらいで済んでいたところが、人数が増えてくるにつれ暴走していく危険は無いか、という不安はあります。

N国もポピュリズム政党のひとつに数えて良いと思いますが、あそこの党首はすでに排外主義を丸出しにしてますしね……。