大須は萌えているか?

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伝記『スティーブ・ジョブズ』を読んで

今さらではあるんですが、ジョブズの伝記を読んだ話。

上巻発売当初、電子書籍版を買おうかとも思ったんですが、単体アプリ版が存在せず、どっかの電子ブックストアのID取ってどーたらこーたらしなくてはならないみたいなので、めんどくさくなり紙の本を買ったんですが、下巻発売直前になって単体アプリ版がリリースされるという謎展開。いやなにそれどういうこと。でも、もう上巻をふつーの本で買っちゃったから、下巻もふつーに本屋さんで買いましたよ。

電車の中で立ちながら読んでると、腕が疲れてくるけどね!

それはそれとして、私もMaciPhoneというApple製品を使ってはいますが、初めてMacを買ったのは2007年というニワカユーザーであり、あんまりスティーブ・ジョブズのことを詳しく知らなかったので、かなり興味深く読めました。

この書籍を読んでとりあえず感じたのは、スティーブ・ジョブズってすげーヤな奴だなというコト。当時付き合ってた彼女に妊娠したと告げられてもそれを華麗にスルーしようとしたとか、いや人としてどうんなんだと。部下のアイディアを「くだらない」と一蹴して、その後自分が思いついたアイディアであるかのように触れ回るのはボスとしてどうなんだと。

しかし、その自分本位な性格はジョブズ自身の思い描く「最高のモノ」を作り出すコトにも繋がり、Appleの製品にも徹底的に自分のビジョンを浸透させ、結果数々のスゴイ製品が生み出されたワケなんですけど。特に、製品のデザインや機能はおろか、製造工程やパッケージング、そして流通にまで細かく首を突っ込んでいるのがスゴイ。その結果誕生したApple Storeなんて、小売店として極めて洗練された店になってる。製品を作る素材から、ユーザーが製品の箱を開けたときの感情までコントロールしようとした人って他に居るでしょうか。

そのすべてをコントロールしようとする様はある種病的にすら思えます。でも、だからこそAppleの成功がある。じゃあ、どっかの社長がジョブズのマネして、徹底的なトップダウンですべてをコントロールすれば同じように成功できるか、というと無理。その振る舞いはマネできたとしても、そのビジョンはマネできないから。

んでもって、ジョブズのビジョンの描き方というのは多分に感覚的なモノで、ロジカルなモノではない。

ジョブズは頭がいいのだろうか。いや、それほどいいわけではない。むしろ天才、ジーニアスなのだ。彼の想像力は、予想もできない形で直感的にジャンプする。ときとして魔法のように感じるほどだ。

via: 『スティーブ・ジョブズ II』423ページ

秀才のロジックはマネできても、天才の魔法はマネできない。ジョブズの態度にブチ切れて袂を分かった人も結構居たみたいですが、それでも優秀なスタッフがAppleに集まったのは、ジョブズのビジョンに惚れ込んだ人が多かったというコトなんでしょうね。他の人がジョブズのマネしたら、周囲との軋轢だけが生まれてしまう気も。

ひとつ面白いな、と思ったのは、そのすべてをコントロールしようとするジョブズが、この伝記の内容を一切コントロールしようとはしなかったコト。

取材を続けたこの足かけ3年、私がなにをどう書こうとしているのか、どういう結論にしようとしているのか、ジョブズがたずねたことは一度もなかった。ジョブズは私の目をじっと見てこう言った。

「君の本には僕が気に入らないことがたくさん書かれるはずだ」

これは意見というよりむしろ質問であり、その証拠に、ジョブズは私の目を見つめながら答えを待っていた。私はうなずき、にっこり笑いながら、それは間違いないよと答えた。

「それは良かった。それなら社内で作った社長礼賛本みたいになる心配はないな。かっかするのは嫌だから、当分、読むのはやめておくよ。読むのは1年後くらいかなーーそのころまだ生きていたらね」

via: 『スティーブ・ジョブズ II』411ページ

ジョブズApple製品のすべてをコントロールしようとしたのは、それが最高の製品を作り出す一番の方法だと確信していたからでしょう。同じように、伝記の内容については自分が一切関わらないコトが最良だと判断したんでしょうね(表紙にだけはちょっと口を挟んだようですが)。そう考えると、ジョブズという人はわがままな暴君というより、ただひたすら最高のモノを作り出したいと考え続けた人、なんでしょうね。最高のモノを作るためなら鬼畜にもなってやる、っていう。

ただ、やっぱり相当な自信家ではあったんだろうな、と思います。じゃないと、そこまで大胆かつ強硬な行動できないでしょうし。

「最高のモノを作りたい」と思う人はいっぱい居ると思うんですが、その最高のモノを思い描き、それを実現するために周囲を罵倒したりおだてたり説き伏せたりできる人っていうのはほとんど居ない。ほとんどの人は「最高のモノ」がなんなのかすら思い描けないし、それが自分以外の人間に受け入れられるという自信も持てない。だから大胆な行動ができないし、ついつい最大公約数的に余計な機能を付け加えまくったりしちゃう。

ジョブズの下で働く、っていうのはたぶんブラック企業で働くのに近いような状況なんじゃないか、とも思えてしまうんですが、でもそのボスがとんでもなくワクワクするビジョンを持っていて、それを実現するだけの行動力を持ち合わせているとしたら……「くやしい!…でも…働いちゃう!ビクビクッ!」的な。

もしジョブズのような人間になりたい、という人がいるなら、ジョブズを尊敬したりしてちゃダメでしょうね。「ジョブズよりうまくやれるよ」くらいの自信家じゃないとダメなんじゃないかな。

スティーブ・ジョブズ I
リエーター情報なし
講談社

 

スティーブ・ジョブズ II
リエーター情報なし
講談社