そんなワケで、前回に続き今更ですが『まどか☆マギカ 叛逆の物語』の話。ネタバレ全開です。
前回：『魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語』の話の流れを書き出してみる（ネタバレ）
ほむらは「悪魔」になったのか？
今回のお話で一番印象に残ったのは、やはり悪魔っ娘ほむら。良い話で終わりそうな物語の最後の最後に、円環の理たるまどかの記憶を引き裂いて地に落とし、自ら悪魔と名乗る中二……いやさダークヒロインっぷり。
しかしなんかアレなんですよね、確かにほむらは世の理を書き換えるコトすらできる存在になってしまったワケですが、悪魔かって言われるとそこまで悪魔って感じもしないんですよね。
だって彼女、ギリギリまで迷っているじゃないですか。殻（自身のソウルジェム）の中で魔女化したのだって、キュウべえが円環の理にちょっかい出せないように、自爆するための行動だし。ほむらが円環の理を引き裂こうという意思を固めたのは、ほんとに最後の最後。
この「叛逆の物語」はほむらの欲望と理性がずっとせめぎ合う話なんですよね。ほむらの欲望というか本音が望んでいる世界は、物語序盤の「ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット」の世界。まどかも含めた魔法少女みんなでキャッキャウフフな世界。
でも少しずつ記憶という名の理性が蘇り、その世界を壊しにかかる。こんな世界に皆を閉じ込めておいてはいけない、と。でも最後の最後に欲望が勝ち、殻の外でほむらが望む世界を実現させてしまう。即ち、まどかを含めた魔法少女が皆揃っている世界。
円環の理を引き裂いた際にさやかとベベが一緒に復活したのも、ほむらは意図してやったんじゃないかって気がするんですよねぇ。だってまどかと一緒に居れさえすれば良いのなら、殻の中の世界にもまどかだけ招き入れてるんじゃないかと。まーもちろん、メインディッシュ（？）はまどかでしょうけど。
元々ほむらは、円環の理になったまどかの願いを踏みにじってまで自分の欲望（ほむら自身に言わせれば「愛」ですが）を優先させる気は無かったハズ。でも、殻の中の世界でまどかの「友達や家族と離れ離れになんてなりたくない」という思いを聞いて、心のタガが外れてしまった。
ほむら「私はまどかと一緒にいたい、まどかもホンネでは皆と一緒にいたい。まどかを円環の理から解放すればWin-Win……！」
……てなコトをほむらが考えたかどうかは知りませんが、その後一度はキュウべえに対し「お前を殺して私も死ぬ」と決意したものの、さやかとべべの手引きで円環の理たる力を取り戻したまどかがあっさりキュウべえのフィールドを破壊しちゃったもんだから、ここでほむらも方針転換。円環の理を引き裂くという力業に至ると。
確かにまどかが書き換えた世界の法則を再度上書きしてしまうその力は「悪魔」と呼ぶべきものなのかもしれませんが、しかし最後まで理性と欲望の間で揺れていたほむらは、やっぱり「人間」だよなぁなんて思うのです。
円環の理を引き裂くに至ったその力も、まどかを救うことを願い魔法少女となり、再構築後の世界でもまどかに会いたいという思いを募らせて、仕上げにキュウべえのフィールド内でじっくりコトコト煮込まれたコトで得た力であって、これは人間の感情そのものですよね。だからキュウべえも「人間の感情は利用するには危険すぎる」みたいなコトを言っているのであって。
「いやほむらの感情はさすがに異常だろ」という向きもあるかも知れませんが、世の中のニュースを見ても愛情をこじらせた方々の様々な事案が報じられているワケでして、ほむらが特段異常だとも思わないんですよね。たまたまほむらが魔法少女で、その思い人が神に近い存在になっちゃったってだけの話で。
そして引き裂かれたまどかがポロっと円環の理の記憶を思い出そうとしたときに、ほむらは露骨に動揺しちゃったりもしてますね。この辺みても、悪魔になりきれてはいないなぁと。なんていうか、ほむらが自らを「悪魔」と定義したのは、決意表明みたいなモノだったように見えます。世界の法則をねじ曲げてでも、自分が望む世界にしてやるっていう。
なので、『叛逆の物語』後のほむらを定義するならば、「悪魔」というより「悪魔っ娘」くらいの方がしっくり来ますね。
まどかはホンネでは円環の理になりたくなかったのか？
ほむらが悪魔っ娘街道を爆走するきっかけになったまどかの「離れ離れになりたくない」発言ですが、じゃあ実際のところまどかはホンネの部分では円環の理になんてなりたくなかったのか？というのもちょっと気になるところです。
『永遠の物語』で実際まどかが円環の理になるコトを決意するシーンなんかを見返してみると、まどか自身はすべて納得した上での決断なんですよね。そして、まどかに言わせれば自身が世界の理と化すことで「いつも皆と一緒に居られる」と考えている。なので、まどか自身はその決断をまったく後悔していないんじゃないかなと。
ベテランのまどかウォッチャーであるほむらもそんなコトは分かってるんじゃないかと思います。ただ、ほむらにとってはまどかの言う「いつも皆と一緒」という感覚が理解できない。だって自分の方からはまどかのコト認知できないじゃん、っていう。『永遠の物語』でまどかがほむらを諭すシーンでも、最後までほむらは泣きわめいていたワケで。
なので、まどかにとっては「離れ離れになりたくない」という思いと、円環の理となってすべての魔法少女の希望になりたいという思いは矛盾しないんだけど、ほむらはそれを（敢えて？）曲解したように見えるんですよね。
でもそれだって人間として特に珍しいコトじゃない。自分の思いに従ってちょーっとねじ曲がった解釈する人なんて、WEB上を見てみればいくらでも居るじゃないですか（たぶん私もそうしてしまう時がある）。ほむらも、積もり積もったまどかへの思いがちょいと先走っちゃったに過ぎないのですよきっと。
これからどうなるのか？
パンフレットなんかを見ると、なんとなく「今後の展開」にも含みを残していますし、物語的にもすべての魔法少女を復活させたコトで続編を描きやすそうな状態になっているワケですが……続編やるとしたらどういう話になりますかねぇ。
さやかはまだ円環の理の一部だったときの記憶を部分的に残していたものの、それも程なくして忘れてしまう模様。他の魔法少女も記憶が書き換わっているみたいですし、ほむらの悪魔っ娘ぶりを覚えているのはほむら自身のみとなります。
そうなると、やはり物語のカギを握ってくるのはまどかになるんでしょうね。引き裂かれたとは言え、円環の理との関係が完全に絶たれているワケでは無さそうですし。あとはボロ雑巾の如き扱いを受けているキュウべえ。次こそはいよいよサブタイトルが「逆襲のキュウべえ」になるかもしれません。新房総監督はパンフレット内のインタビューで『[新編]のサブタイトルを「インキュベーターの逆襲」というタイトルにしたかったぐらいのキュウべえ派です』とコメントしてますし。
まどかは「すべての魔法少女の希望になる」という大義のために身を捧げるコトを選び、ほむらは「まどかと一緒にいたい。魔法少女みんなでキャッキャウフフしたい」という自分の欲望を選んだ。私が最初の感想で『「大義のため（平たく言うと世のため人のため）に生きるか、自分のために生きるか」という話』と書いたのは、そういうコト。
しかしほむらにしてみれば「いやいやまどかさん、貴方もホンネではこういう世界の方が良いでしょ？離れ離れになるの嫌でしょ？」と思い込んでいた。でも、まどかは「いやー、ルール破るのはよくないと思うで」と円環の理モードに入ろうとした。そりゃほむらちゃん動揺しますよね。
でも、ほむらはもう悪魔になると決断してしまった。引くに引けないところまで来てしまった。その結果、まどかに「いずれ貴方と私は敵対するかもしれない」と告げる。まどかのリボンはまどかにこそ似合う。ほむらはまどかにはなれなかった。むしろ、相容れない存在になってしまった。
殻の中で夢想した「ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット」の世界を実現させたつもりが、とんでもないセキュリティホールが見つかってしまったような。とりあえずまどかに抱きつくというセキュリティパッチを実行したほむらですが、新たな対策が必要でしょう。
ほむらが「Service Pack1」を用意するのが早いか、まどかやキュウべえが世界の脆弱性を突くのが早いか。続編はきっとそんなお話（妄想）。でも望みはあります、ほむらは悪魔になりきれない、悪魔っ娘だから。
