大須は萌えているか?

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池袋のプリウス事故にみる「ドラマチックすぎる世界の見方」

先日、東京で高齢者の運転するプリウスが歩行者をつぎつぎとはね、母子2人が亡くなるという痛ましい事故が起きてしまったそうで。

80代男性の車 歩行者次々はねる 約10人けが うち2人重体 | NHKニュース

この事故の原因についてはこの記事を書いている現在も調査中となっていますが、運転手の操作ミスの可能性が示唆されてるみたいですね。

東京・池袋の都道で乗用車が暴走し、母子2人が死亡、8人がけがをした事故で、エアバッグが正常に作動するなど、乗用車に機器の不具合が確認されていないことが20日、警視庁への取材で分かった。運転席の足元付近に落下物がなく、ペダルに物が挟まって動かなくなるトラブルも考えられないことから、運転操作ミスの可能性を視野に捜査している。

via: 池袋事故、操作ミス視野に捜査 母子2人死亡 | 共同通信

しかしこの事故、まーたプリウスの「欠陥」を指摘する声がTwitterとかで上がっていたようです。そのうちのひとつが、プリウスのシフトレバーがわかりにくいって話なんですが、この話プリウスの事故が報じられるたびにぶり返されてるな……。

プリウスの「シフトレバー」は問題なのか?事故から数時間経過した現在もツイッターで議論されている。 - Togetter

この件について、2年半くらい前にこのブログでも記事を書いてみたりしているんですが、なんかこの事故の発生後アクセス件数増えててなんだかなあ、という感じも。ひとことで言えば、プリウスのシフトレバーが事故を引き起こす原因、という指摘は「荒唐無稽」と断じてしまって良いと思ってます。

プリウスのシフトレバーを疑問視する声に対する疑問 - 大須は萌えているか?

だいたいさ、今回の事故に限定して言えば、バックと前進を間違えた、とかニュートラルだと思ってたらクルマが動き出した、なんていう事故ですらなく、最初からシフトレバーなんっっっの関係もないんですけど、なんで今シフトレバーの話してるの?

そして今度は、プリウスを運転していた老人が「アクセルが戻らなくなった」と話している、という報道がされると、2009年から2010年にかけての、トヨタ車の大規模リコールとの因果関係を示唆するような人もいましたね。

トヨタ自動車の大規模リコール (2009年-2010年) - Wikipedia

たしかに2009年11月のリコール対象車には、モデルイヤーが2004年から2009年のプリウスが含まれているので、今回事故を起こしたプリウスの製造年とかぶる可能性はあるんですが、これは北米向けモデルの話ですからね。北米のディーラーが取り付けていた重たいフロアマットが留め具から外れ、アクセルペダルに干渉する恐れがあったという話なので、日本の車両は関係ありません。

そして2010年に発生した、日本国内のプリウスのブレーキに関するリコールを持ち出している人も居ましたが、このリコールの対象になったのは、今回事故を起こした2代目ではなく3代目です。ていうか、今回の事故はブレーキをまったく踏まずに交差点に突っ込んでしまった事故なので、そもそもブレーキとはなんの関係もありません。

この手の事故が起きてしまったときに、なんの関係も無い話を持ち出して、車両の「欠陥」を喧伝したがる人っていうのが一定数いらっしゃるようで、これなんなのかなあ、と思ったりして。ただ、先日読んだ『FACTFULNESS』にあった、「ドラマチックすぎる世界の見方」をしてしまう、という人間の心理を考えるとしっくり来たりもします。

SNSやってる人にはオススメの2冊『ファスト&スロー』と『FACTFULNESS』 - 大須は萌えているか?

世界中で売れているプリウスというクルマにこんな欠陥があった!という指摘は、ドラマチックであり世間の耳目も引きやすく、かつ特定の人々にとっては「心地良い」ストーリーである、というコト。こういうストーリーは、SNSの世界では瞬く間に伝播してしまう。ある意味、SNSの特性がよく表れた事例とも言えますね。

一方で、ドライバーの運転ミスの線が強くなると、「これからもっと高齢者が人を殺す」みたいなことを言う人が出てきて、「高齢者から免許を取り上げろ」という話にもなったりするワケですが、「交通死亡事故者数」という意味で統計を見ると、平成5年以降死亡者数はずっと下がり続けており、平成30年は3,537人と統計史上最低となってます。平成5年が11,452人なので、この25年で死者数は1/3以下になっていると。

道路の交通に関する統計 交通事故死者数について 平成30年中の交通事故死者数について 年次 2018年 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

もちろん、高齢になった人の中には自動車の運転はもう無理だろ、って人もかなりいて、そういう人らには自主的に免許を返納してもらう、あるいは免許を更新しないっていう措置が必要になるだろうとも思いますが、まず「全体として見た場合、死亡事故の数はどんどん減っている」というコトは頭に入れておいても良いんでないかな、と。

死亡者数が減っている主な理由は、近年のクルマの安全性や事故回避性能が飛躍的に向上しているのが大きいかと思いますが、一方で今回事故を起こしたドライバーのように、自動ブレーキ(最近は語弊があるから「被害軽減ブレーキ」って言うらしいけど)とかが付いてない、10年以上経つようなクルマをずっと乗り続けている老人もいるワケで、こうしたドライバーへの対策というのは必要なんでしょうね。

相変わらず、「アクセルペダルとブレーキペダルのUIが間違っている」という人も見受けられますが、今ではサポカーの普及が事故の抑止に効果を上げているのは確かであり、ペダルのUIを見直すなんていう実現までに何年かかるんやそれ的な発想をするよりも、いかにサポカーの普及を推進させていくかを考えた方が現実的かと思います。5年くらい前にも、そんな記事書いたんだけどね。

アクセルとブレーキのペダル踏み間違え事故を減らすにはどうすりゃいいのか - 大須は萌えているか?

あとついでに、今回の事故を起こした老人がその場で逮捕されず、報道では「容疑者」ではなく「さん」付けとかで報道されていたとかで、その理由としてこの老人が「元官僚で、天下りしたクボタで副社長をやっていた『上級国民』だから」という話まで出ていて、「上級国民」がTwitterのトレンド入りまでしていたというのもなんだかね……。

池袋の母娘の死亡事故、メディアが「容疑者」と報じない理由とは? | ハフポスト

こうしてまた、新しい陰謀論が日夜生まれていくんでしょうねえ。