大須は萌えているか?

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ホーキング博士のAI観が興味深かった1冊『ビッグ・クエスチョン』

理系の素養はまるで無い私ですが、NHKの番組『コズミック フロント☆NEXT』でやってたホーキング博士の回を観て、つい買ってしまった本がこちらになります。

ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう
青木 薫
NHK出版

「車椅子の天才物理学者」スティーブン・ホーキングは2018年に亡くなりましたが、その遺作とも言える一冊。昔、世界中でベストセラーになった『ホーキング、宇宙を語る』も昔読んだ記憶があるんですが、内容はほとんど忘れちゃったな……。この本も、『ホーキング、宇宙を語る』同様に一般向けに書かれている内容で、ややこしい数式とかは抜きで読めるので助かりました(それでも理解できないところもぽこぽこあったけど……)。

内容は10章に分かれており、1章につき1問の「ビッグ・クエスチョン」に対するホーキングの考えがまとめられています。「未来を予言することはできるのか?」とか「タイムトラベルは可能なのか?」とか、SF小説の設定にありそうなクエスチョンもあってどれも興味深いんですが、一番気になったのは「人工知能は人間より賢くなるのか?」という設問。

以前読んでみた『ビッグデータ人工知能』という本(⇒ 『ビッグデータと人工知能』という本を読んでみた)の著者は、機械と生物の違いはとてつもなく大きいとして、シンギュラリティのような考えをバッサリ否定してみせていたのですが、ホーキングはAIの進化についてはかなり肯定的というか、人間の知能をAIが超えるのは当然ありえるものとして考えていたみたいですね。

ミミズの脳の働きと、コンピュータの計算の仕方とのあいだに重要な違いはないと私は考えている。また、進化ということから考えて、ミミズの脳と人間の脳とのあいだに定性的、つまり質的な違いはあるはずがないとも信じている。原理的には、コンピュータは人間の知性を真似できるし、人間の知性よりも優れたものさえエミュレートできるということだ。

via 『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』 9章より

情報処理器官としての脳みそとコンピュータとの間に大きな差はなく、今のコンピュータがミミズと同じくらいの処理しかできてないとしても、コンピュータが発展し続ける限りはいずれ人間に追いつき、追い越すというコトですかね。

もしもコンピュータが今後もムーアの法則に従い、一年半ごとに計算速度と記憶容量が倍増するなら、今後百年間のどこかの時点で、コンピュータは人間を追い越すことになりそうだ。なんらかの人工知能(AI)が、人間よりも上手にAIを設計し、人間の力を借りずに自らを再帰的に改良できるようになれば、人間がカタツムリよりも頭が良いというレベルを超えて、機械が私たちよりも賢くなる「知能の爆発」に直面するかもしれない。

via 『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』 9章より

この言い回しをみる限り、シンギュラリティに対しても肯定的な見方をしているといって良さそうですね。もちろん、今までと同じペースでコンピュータの進化が続いていくならば、という前提条件つきではありますけども。確かに、コンピュータが自分自身でプログラムの設計までできるようになれば、あとは人間が理解できるスピードを超えた進化をしてしまいそうな気はします……が、果たしてAIが『人間の力を借りずに自らを再帰的に改良』するところまでいくのかどうか。

ホーキングは、AIの進化が人間に最善の結果を与えるかもしれないが、コントロールを誤れば人間にとって最大の脅威にもなりえる、とも言ってます。AIがなにを目的とするかにもよりますが、もしその目的を達成するためには人間を排除する必要があるとなった場合に、AIが人間を無差別攻撃し始める……みたいな、そこいらのSF小説にありそうなストーリーが現実のものとなるかもしれない、という話。

ホーキングはソフトウェア開発の専門家というワケではないので、あくまでコンピュータの原理から考えるとそうした未来は十分ありえる、というコトだとは思いますが、天才とまで言われた人がこうもハッキリAIの進化の可能性を書いていると、「え、まじで?」という気がしてしまうので困ったもんです。本格的にコンピュータが世の中に出回るようになってから、まだ半世紀そこそこしか経っていないというコトを考えると、100年後のコンピュータがどうなっているかなんて、確かに想像つかないところはありますが……。

また、同じ章の中でホーキングは

歳をとらず、普通ならできないような演技のできるデジタルな俳優が登場したら、すばらしいのではないだろうか。未来のアイドルは、生身の人間ではなくなるかもしれない。

via 『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』 9章より

とも言っていますが、これは半分くらい実現してますよね?まあ、自我をもったバーチャルアイドルはまだ登場してないけども……って、これ『マクロスプラス』の世界や(⇒ シャロン・アップル - Wikipedia)。

あと、未来のコミュニケーションはインターフェイスを介して人間の脳とコンピュータが接続されて云々みたいな、それ『攻殻機動隊』ですやん、みたいなコトも言ってたりして、SFネタが好きな人には面白いコトがいろいろ書かれておりました。

他の章にも興味深いコトがたくさん書かれているんですが、1章の『神は存在するのか?』や2章の『宇宙はどのように始まったのか?』で触れられている、ビッグバンにまつわる内容も自分にはなかなか衝撃的でありました。かいつまんで言うと、原子より小さな粒子の世界では「なにも無いところからなにかが出現する」ということがふつうにある、そして宇宙もその起源をたどると粒子レベルに小さかったとされており、よって宇宙も無から生じたと考えても自然法則には反しない、という。

宇宙の始まりは、無限に小さく無限に密度が高いもの……つまりブラックホールの1つであり、ブラックホールの内部では時間という概念が存在しない……つまりそれ以上「時間を遡る」ことは不可能となり、よってそこには創造主もなにも居ない、という話(読み違えてたらごめんなさい)。

ただ、時間も空間も無い世界(?)で、ふと出現した粒子がビッグバンを起こし、そのとき初めて時間もスタートした……といっても、イメージが掴めなさすぎて困る。それこそ形而上学的な世界、神々の世界とも言えるような気もしますが、時間も空間もないんだから「神」なんていう存在があり得ない、っていうのはまあ確かに。そこには「歴史」というものも無いんだよなあ……うむむ。

そんなコトを考えていると、現実世界の悩みがかなりどうでもいいコトのようにも思えてくるので、ストレス発散に読んでみるのもオススメです(?)。逆に悩みが深くなっちゃう可能性もありますけど。