大須は萌えているか?

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仏教の歴史をわかりやすく概観できる一冊『別冊NHK100分de名著 集中講義 大乗仏教』

今年はせめて月イチくらいは読書ネタをブログに書こう、と決めたのに、ぜんぜん書かないまま一月が終わろうとしてしまっているので、慌てて書きます。今回のネタはこちら。

この本、年始にたまたま目にした「はてな匿名ダイアリー」の記事で紹介されていたのが気になって読んでみたもの。

100分de名著シリーズのバックナンバー約100冊を読破したら人生変わった、の補足

NHKの『100分de名著』って番組はなんか聞き覚えはあったんですが観たこと無かったです。ただ、番組観たコト無くても、本だけ読んでも大丈夫(むしろ番組は観なくても良い?)らしいというコトと、上記リンク先の記事内で「特におすすめするもの」の1冊に挙げられていたのが気になり、Kindle版を買ってみた次第。

なお、これ紙の書籍はムック扱いとなっていたため、Kindle版は雑誌なんかによくある固定レイアウトなのかなー、と思いきや、ちゃんとテキスト読み上げも可能な普通の(?)電子書籍となっていたのが有難かったです。

この本に興味を持ったもうひとつの理由として、私自身旅行先なんかでお寺なんかに行くのは好きなんですが、仏教というものについてロクに知識が無かったから、というのもあります。かつて釈迦が説いた仏教と、今日本に伝わっている大乗仏教とでは大きく違うとか、今日本にある各宗派によってもその教義は異なってくるってコトはなんとなく知っていたんですが、それ以上のコトは知らなかったので。

この本はずっと講師と青年の会話形式で書かれており、読みやすさに重点が置かれている感じ。それでいて、講師の解説に対して青年が要所要所で鋭いツッコミを入れていたりもするので、最後まで飽きずに読むコトができました。内容としては、最初に釈迦の仏教と大乗仏教の違いが説明され、そこから大乗仏教の中でも代表的な経典である「般若経」「法華経」、そして現在でも日本で最大の信者数を誇るという浄土真宗を含む「浄土教」、あと「華厳経」と密教について触れられていく流れ。

キリスト教なんかもその歴史の中で分裂を繰り替えしていますが、仏教はもう元がなんだかよく分からなくなるレベルで分裂・変容を繰り替えしており、この流れをキチンと理解しようとすると数年では足りなさそうなレベル。そういうややこしい仏教の歴史と今に至る流れをざっと概観するには良い本だと思います。逆に言うと、仏教についてある程度の知識がある人には物足りない本でしょう。

元々の釈迦の仏教は「自分を救えるのは自分だけ」みたいな感じで、出家して修行に打ち込み煩悩をひとつずつ潰していくコトによってのみ苦しみから解放される、というめちゃストイックなモノであったと。ところが、釈迦の死後100年以上経つと、その教えに対する解釈にバラツキが生じ始め、お互いが対立する様になる……と思いきや、それらが併存するようになっていったと言います。

部派仏教とは、お釈迦様の教えの解釈の違いによって、仏教世界が一気に二十ほどのグループ(部派)に分かれていった状況を指します。とは言っても完全に分裂したのではなく、「○○部」「××部」とそれぞれグループ名を名乗りながら、お互いに認め合う分岐社会がアショーカ王の時代にできあがったのです。

via: 佐々木 閑. 別冊NHK100分de名著 集中講義 大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した (Kindle の位置No.244-246). NHK出版. Kindle 版.

この多様性を認めるスタンスが確立したコトが、今もなお日本で仏教が根付いている大きな理由なんでしょうし、逆に仏教の本場だったハズのインドではヒンドゥー教に飲み込まれていく要因にもなったというのは少々皮肉な話。

宗教って、なんかこう厳密な教えが守られ、受け継がれているみたいなイメージがありますが、長い歴史の流れを追っていくと、その時代時代のニーズをくみ取って絶えず変容しているんですね。また、無数の人の手によりアレンジが加えられていくコトにより、「俺の考える最強のブッダ」みたいなのが次から次へと爆誕していくのは、ある意味少年マンガ的とも言えます(?)。

それだけ多様な宗派が生まれたというのは、それだけ多種多様な人が宗教による救いを求めてきたという歴史があったというコトでもあり、それは現代でもおそらく変わらないのでしょう。ただ、科学技術が発展してきた現代に於いては、神だの輪廻転生だのを素直に信じるというのもなかなか難しいモノがありそう。本書の最後の方では、そうした現代における宗教のあり方といった点についても言及されており、これも興味深いテーマではありますね。

これからの時代で大切なのは、仏教の考え方や世界観を一人ひとりがどんなかたちで生活の中に取り入れていくか──これに尽きると思います。そのためにはやはり「学び」が必要です。狭い世界の中で目先のお経ばかり読んでいても仏教を理解したことにはなりません。歴史的な流れの中で日本の仏教がどのような立ち位置にあるのかを理解して初めて、本当の仏教の意味が見えてきます。

via: 佐々木 閑. 別冊NHK100分de名著 集中講義 大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した (Kindle の位置No.2823-2827). NHK出版. Kindle 版.

これはまさにその通りなんでしょう。参拝のマナーだとかルールばかり気にしてても仕方無い。あるいは、宗教を非科学的だと否定したところで、その教えが大勢の人間に受容されてきたという歴史自体を否定するコトはできない。人は宗教に何を求め、宗教はそれにどのように応えてきたのか。そういう歴史をフラットに学ぶべきなのかな、と感じました。……まあ、一朝一夕に学べるものではないけどね……。